サメ探し その4
久しぶりに生き返って新しい体になったので、トシカに折られた2本の歯も元通り生えていて嬉しかった。
海の方を見ると少し遠いが京子たちが乗っているクルーザーが見えた。
いくら生き返りドーピングで身体能力が上がっているとはいえ、泳いでいくには気が引ける距離である。
輪太郎は大きく手を振り「おおい」と叫びながら1メートルくらいぴょんぴょんと飛び跳ねたが京子たちは一向に輪太郎に気が付いてくれなかった。
それもそのはずで、よく見ると京子とラスは輪太郎が仕留めたサメを船に引き上げているところであった。
ラスと京子がサメの角を持ち、一本釣りのような動きでサメを跳ね上げ、船にドカンと下ろしている。
輪太郎のところから、船が揺れてバウンドしているように見えた。
よくあんな重そうなサメを二人で持てるなと輪太郎は感心する。
その京子たちの姿を遠目で見ていると、急に海岸の波打ち際の空に雷が落ちたように見えた。
雷と違うところは落雷が消えずにずっと見えているところである。
海の上に3メートルほどの雷が消えずに光を放っている。
そしてそこから女性が出てきたのだ。
その女性を輪太郎は知っていた。
カルガの母親である。
その女性は海にドボンと落ちると海岸に向かい歩く。
するとまたさっきの光が現れ、カルガが出てきた。
カルガは母親を抱きしめると出てきた光に飛び込み消えてしまう。
その一部始終を輪太郎は呆気にとられながら見ていた。
そして、カルガをボスに合せれば1000万イェン貰えることを思い出し「ああ!」と思わず声を出してしまったがもうカルガは消えてしまっている。
そしてカルガたちに気を取られているうちに、京子たちが乗っているフェリーもいつの間にか見えなくなっていた。
クルーザーにウエストポーチを置いてきており、そこにスマホも財布も入れていた。
連絡手段もお金もないので、輪太郎は港まで走ることにした。
「ねえねえ、早く助けて上げた方がいいんじゃない?」
と京子がクルーザーの上で小山のように大きなサメの腹を見て言った。
「ここで切ると船が汚れるしなあ」とラスは賛同しかねないようだ。
「まだリンちゃん、死んでないかもしれないよ」
「そうかあ? もう結構な時間経ったで」
「いまゆっくりと胃酸で溶けて苦しんでいるかもしれないじゃない」
「想像するとなかなかの状態やな」
「早く助けて上げようよ」
「ひとまず港に戻ろうや。広い場所でやらんと万が一海に落としてもあかんし」
「むう」と京子は膨れながらも反論はしなかった。
クルーザーは巨大サメを乗せたため、少し重くなったがそこは5億円のクルーザーである。
やや行き足は遅かったが、ハイスピードで港に戻った。
京子とラスが二人で港の陸地へサメを放り投げる。
そして、ラスは自分が乗ってきた大型トラックの運転席から刃渡り30センチもある出刃包丁を取り出すとサメの解体を始めた。
まず下あごから包丁を入れ、ずっと腹まで裂いていく。
しかし相手は巨大サメなので30センチの包丁を一回入れただけでは胃袋に届かなかった。
ラスはピンクの宇宙服を返り血で赤く染めながら、腹を裂いていく。
そして胃袋に届いたとき、ごろりと輪太郎の変わり果てた姿が出てきた。
胃酸で瞼は溶け、目玉がぎょろりと出ている。
鼻も溶けてペタンコであった。
「ああ、リンちゃん」と京子が悲しそうに言う。
「いやこいつは生き返るやん」
「でも全然生き返らないじゃない。いつもならもっと早く黒芋虫が出てくるはずなのに、今回は本当に死んでしまったのかも」
そう言いながら京子は涙していた。
「いやあ、予備の体もいっぱいあるから大丈夫やと思うけどな」
そうラスが言っている最中に、輪太郎がほっほっとランニングして二人と合流した。
「みんな置いていくんだ、うわあ」と輪太郎は自分の死体を見てドン引きしていた。
「あ、リンちゃん生きてる。もう心配させないでよね」
と言うと京子は輪太郎の肩を叩いた。
普通の女子だとイタタっですむシーンだが生き返りドーピングも切れていたので輪太郎の方は複雑骨折をしていた。
輪太郎が痛みで悲鳴を上げているその時に、黒芋虫が現れると輪太郎の溶けかかった死体を回収し、チュッパナイフを生きている輪太郎に向かいプッと吐き出し帰って行った。
クルーザーに乗っているウエストポーチを拾いに行き、痛みに耐えながら紫プチトマトを食べる。
肩の痛みが引いたのを確認してから輪太郎は「まあ、みんな無事で良かったよ」と言った。
薬が効いて体調は回復気味です。




