ライカ組の襲撃 その2
チャンスなのかなと輪太郎はチュッパナイフを手に取った。
そして通行人のふりをするため、道の端っこを歩く。
まともにやって勝てるわけがないのだ。
卑怯もへったくれもない。
通り過ぎるふりをして横から不意打ちで切ってやろうと輪太郎は悪だくみをした。
真横を歩くマヴィス人は輪太郎とそこまで変わらない身長だった。
目つきが鋭く整った顔をしていて、おでこから眉にかけて傷がある。
制服の袖に隠していたナイフを手に取り、渾身のスピードで隣の男の胸に切り付ける。
サクッといくはずだったがいとも簡単に輪太郎の腕はその男に掴まれていた。
「なんだこれ? おもちゃか? ちょっと頭が働かないんだ。用があるならあそこの男と話してくれ」
そう言うと、その目つきの鋭い男は輪太郎の手を離した。
輪太郎の渾身の切りつけも、向こうからしたら子供がおもちゃを見せたような動作に思ったのだろうか。
ドーピングをしていて、相手が頭も回らないふらふらの状態でこの実力差である。
「おい、お前、兄貴になにちょっかい出してるんだ!」
そう言ってきたのはトシカである。
さすがメディー族なだけあって、一人だけ元気だ。
「ん? よく見たらお前、昨日ユイと一緒にいた地球人か。今日はユイはいないのか?」
そう言ってトシカはビビりながら辺りを見渡していた。
どうもトシカは外見と内面が合っていない。
息をのむような美男子でスタイルも良いのに、凄く下手な演技をしているような気持ちの悪さがある。
堂々と立っているだけで絵になる男なのに、背筋は曲がり、表情は暗く卑屈だ。
地球ならちやほやされてこんなにひねくれた性格にはならなかっただろうに、と輪太郎は思った。
トシカを置いて、ライカ組の連中は屋敷に向かいぞろぞろと歩いている。
さっきのナイフを止められた事で、もう連中を止めるのは諦めていた。
裸でライオンの群れに殴りこむようなものだ。
連中を止めるのは諦めたが、トシカだけは倒そうと思った。
コジロウの負担を減らすためだけではない。
単純にトシカに腹が立っているのが一つ。
トシカはユイに簡単に泣かされるくらい弱い。
ライカ組にペコペコしているところを見ても、マヴィス人の中でもトシカは弱い方ではないだろうか。
そんなトシカとドーピングをしている状態の自分はどれくらいの実力差があるのか、それを知りたくなったのだ。




