ストーカー真居子 その1
輪太郎と京子は今日もいつも通りパトロールといきたかったが、さっきからずっと付けれられていた。
真居子に。
気づかれていないつもりなのか、電信柱の後ろに走ってはこちらを見ている。
輪太郎は歩くのが早く、京子は身体能力が格上なので二人の歩みは早い。
そのため真居子は少し息を切らしながらかれこれ30分ほど尾行していた。
異世界のものに出会わなければ、真居子が付いてきていても、そこまで問題はない。
かなり視線は気になるけれども。
しかし、いざ異世界のものに出会ってしまうと真居子に危険が迫るかも知れない。
地球人の輪太郎はかれこれ5回も死んでいる(一度は好奇心でラスに殺されたが)そうこれは大変危険なパトロールなのだ。
「おーい、真居子。こっちにおいで」
そう言われて、真居子が電信柱から顔だけ出しながら、自分を指さし「私?」とジェスチャーで聞いてきた。
輪太郎がうなずくと、少し嬉しそうにちょこちょこと走ってきた。
「ずっと見てたんだよ」と真居子がなぜかどや顔である。
「知ってたよ。それで何かわかった?」
「うん。輪太郎と目白さんが仲良くずっと歩いていたわ。本当にバイトなのこれが?」
「パトロールなんですよー」と京子がにこやかに答える。
浮気を疑っているとはいえ、真居子はどうも京子を憎むことは出来ないようで「そうなんですね」と無難な返事をしていた。
「そう。パトロールと言う通り、ちょっと危険なこともあるんだよ。だからそろそろ真居子は帰った方がいいよ」
そう言われた真居子は京子の前ではその言葉を出せないのか口パクをした。
輪太郎の素人読唇術では『浮気』と真居子は言っていた。
「そんなこと言ったら目白さんも危険じゃない」と今度は声に出して言った。
「だから前にも言ったけどきょ……目白さんは特別なんだって」
危ない。
京子と下の名前で呼んでいることがばれると面倒なことになると輪太郎は思った。
そして思い出す。
「そうだ、目白さんの目を見せてもらえばいいよ。目白さんの目は特別で見ると金縛りになっちゃうんだ」
「またまたー、そんな訳ないじゃない」
芸人の前振りのようなセリフだなと思いながら、輪太郎は小声で京子に「真居子の目を見てやって」と伝えた。
「いいの?」
「うん。お願いします」
言われて京子はサングラスを外して、真居子を見た。
サングラスを外した京子は美しすぎて輝いているように見える。
真居子もそう思ったのだろう。
「わあ、綺麗」と真居子は言っていた。
ん? っと輪太郎は思った。輪太郎が初めて京子を見たときは固まって声も出せなかった。
真居子は声も出ているし、普通に表情も幸せそうなものに変わっている。
「あれ? 固まってない?」
「みたいね」と京子が小声で答える。
「僕が弱いの? それとも真居子が強いの」
「たぶん真居子さんが強いのだと思う。力を込めたら固められるけど、それやるといつ動けるようになるかわからないかも」
「じゃあ、やめよう。サングラスしてくれていいよ」
二人の小声でのやり取りを見ていた真居子は、キッと輪太郎を睨んでまた口パクをした。
『イチャイチャしてる』と言ったのだろうと輪太郎は分析した。




