海を眺める人 その2
京子は海を見るのが好きらしく、輪太郎が異を唱えなければ大体浜辺の方に来てしまう。
京子の住む地域は海が遠いらしく、御池田畑町に来るまで海は見た事がなかったらしい。
異世界の海だろうと、生命は海を美しいと感じるのだろう。
辺りが暗い中、街灯に照らされて海を眺めている中年の男がいた。
防波堤に座っており、上下とも灰色の質素な服装をしている。
輪太郎一人なら通り過ぎていただろう。
しかし、その男からはリゲンが感じられると京子が言ったので、輪太郎たちは話しかけることにした。
「地球で何をしているんですか?」と京子が問いかける。
「海を見ているよ。美しいな。夕方からずっと見ているが飽きない。太陽が水平線に沈んでいく。今日が終わる。君も見たかい。あの夕焼けが反射して輝く海の美しさを」
「ええ、見てます。美しいですよね。私も海が好きです」
「マヴィスの海は見た事があるかい?」
「いえ、まだないです」
「マヴィスの海はね、黒いんだ。真っ黒ではない。輝く黒さというかな。私は一度だけ見た事がある。見聞を広めるために3年間旅行をした時だ。死ぬ前にもう一度見たいと思っていた。でもマヴィスの海は遠いからね。地球の海を眺めている。夜の海はマヴィスの海を見ているようだ」
男はそう言うと感慨深く海を見ていた。
とても絵になる美しい雰囲気がそこにある。
「このまま死ぬ気ですか?」
京子が「今日は泊りですか?」と聞くような気軽さで言った。
輪太郎はビックリする。
そうだ、普通のマヴィスの人間は長く地球にはいられない。
「ああ、そのつもりだ。最後に海が見れてよかった」
「何で死ぬんですか?」
「病気だよ。もう体が上手くリゲンを処理できない。手がろくに動かなくて自分でご飯を食べることも出来ない。排泄もうまく出来ず垂れ流してしまう。子供たちが面倒を見てくれているが、もうそろそろ終わりにしたいんだ」
京子は少し悲しそうな表情になり何も答えなかった。




