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迷い人 その4

「結局、死んじゃったな。今回は赤字かな」


 輪太郎はそう言うと黒芋虫の唾液を振り払いながら、カルガに近づいていく。


「いきなりナイフで母さんが切られたら誰だって怒りますよね。だから殴られたことは気にしません。ただこのナイフはリゲンを吸い取るだけなのでお母さんは無事です。動けるようになったら、お母さんを連れて帰ってください」


 輪太郎は説明すると、カルガに笑顔を向けた。

そして、沈黙が続く。


「あれ? 京子さん、どれくらい固めたの?」


「リンちゃんがいきなり殺されて、カッとなっちゃったから結構力を込めちゃったかな。10分くらいは動けないかも」


「え?」と輪太郎は自分が切った女性を見た。

呼吸も弱く、虫の息に見える。


「10分もこの女性、地球にいて大丈夫かな?」


「危なそうだよね」


「やば。お母さんは無事ですって大嘘になる」


 輪太郎はポシェットからうまいドリンクを出すとカルガに抱きかかえられぐったりしている女性の口に含ませた。

女性の喉が少し動くと、パチッと電気が来た。


「お、今電気が来たよ」


「それなら大丈夫そうね。ところでその残り私にくれない?」


 そう言われたので京子にうまいドリンクの瓶を渡した。

京子はとても美味しそうにドリンクを飲み干す。


「美味しい。この栄養ドリンク高いから飲んだことなかったんだよね。確かに元気が出るかも」


「へえ、やっぱり効くんだね。高いっていくら?」


「三千イェンだったかな。高級品だよね」


 僕は三万イェンで買っているけどねと輪太郎は思った。

やっぱりぼられている。

それか関税でも掛かっているのだろうか。


 カルガが動けるようになるまで、輪太郎たちは見守ることにした。

親子とは言え、女性を抱きかかえたまま動かない人を見ると誰か通報してしまうだろう。

十分経ち、やっとカルガは動き始めた。


「何か誤解したようですみませんにゃ。ありがとうございましたにゃ」


 カルガは頭を何度も下げてお礼を言ってくれた。


「大丈夫ですよ。でもお母さんが探していた赤ちゃんは大丈夫なんですか?」と輪太郎が聞いた。


「ああ、その赤ちゃんって僕のことですにゃ。昔、地球に間違えて来たことがあったようでその事を母はまだ覚えているようですにゃ。よほど印象に残っていたのかたまにこういうことを起こすんですにゃ」


 そう言うとカルガは何とも哀愁のある笑顔を作った。


「認知症なの?」と京子が聞く。


「そうですにゃ。調子の悪いときは僕のこともわからなくて。でも普通は大丈夫なんですにゃ。目が覚めたらきっと大丈夫ですにゃ」


 カルガはそう自分に言い聞かせているようだった。


「そろそろ苦しいので帰りますにゃ。お礼はあらためてしますにゃ」


 そう言うとカルガは母をお姫様抱っこしながら、さっと走り去ってしまった。


「若そうなのに認知症って大変そうだな」


「そうだね、さっきの人は百歳くらいかな」


「え? 百歳なのあの人?」


「たぶんね。まだあと百年は生きれるからカルガさんは大変だろうね」


「そうだね」


 二人はカルガの苦労を思い、しばし遠くを見つめていた。


「話変わるけど、今回って何か特別報酬出るかな?」


「ただ迷子の人を見つけただけだし、どうだろうね」


「はあ、今日は112万イェンの赤字かも」


 今回はスペアボディを一体と紫プチトマト、崖っぷち納豆にうまいドリンクと豊作人参を一つずつ使っている。それに試しにカチコチキャンディーも食べたので、今日の日当の一万を差し引くと、112万の赤字となる。


「まあ、まだ前回のお金も残っているんだし、大丈夫だよ。元気出していこう」


 そう言って京子は元気づけるために輪太郎の肩を軽く叩いたつもりだったが、まだ地球人の弱さに慣れていないらしく輪太郎は豪快に吹き飛ばされていた。

生き返ったばかりで身体の堅さと反射神経が強化されていたため、ケガもせずに死んだが、危うくもう一つ紫プチトマトを使うか、打ちどころが悪ければスペアボディをもう一つ使うところであった。


「あ、ごめんね」


 天使のような可愛らしさでそう言う京子に、輪太郎は笑顔で「大丈夫だよ」と答えている。

京子の笑顔の前では怒ることは至難の業のように思えた。



 一応、屋敷に戻るとカルガとその認知症の母に会ったことをボスに報告した。

すると思ったよりもボスはその二人に興味を持ったようだった。


「その二人はどう言った言葉を話していた?」


「僕にも言葉が通じたのでほぼ日本語でしたよ。語尾ににゃあにゃあ言っている以外は普通の日本語でした」


「ふむ。京子はその二人はどこの世界の人間だと思った?」


「そうですね。電気を放電する力や言葉の訛りなどはマヴィスの住人ではない気がしました。となるとニビルかなと思います」


「そうか。次にそのカルガに会ったらここに連れてきてくれ。その報酬に1000万イェンを払おう。では明日も頑張ってくれ」


 そう言うとボスはテレビに向かい、ゲームを始めてしまった。


 やっぱり今日は特別報酬はないのねと輪太郎は少しがっかりしたが、カルガを連れてくれば十分元は取れそうである。

帰りに今日使ったドーピングアイテムとスペアボディを買い、豊作人参はあと4本追加して今日の仕事は終わりにした。


11月12日現在の輪太郎の持っているアイテム

ムサシスナック棒  4本

カチコチキャンデー 4個

脱兎アメ      10個

チョコと集中    4枚

うまいドリンク   4本

崖っぷち納豆    4個

紫プチトマト    4個

イチコロチーズ   4個

夜道のイチゴ    4個

炎玉        3個

豊作人参      7本

スペアボディ    12体

所持金      3996万イェン

借金       三億イェン


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