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メッシロ・キョウコ その4

輪太郎は真居子という彼女がいるのに、京子という絶世の美女と浮気していると言う噂が流れるのに時間はかからなかった。

そしてそれを否定したくても、毎日のように輪太郎は京子と一緒にパトロールをしなければいけない。

はたから見れば毎日デートをしているように思われても仕方がない状況だ。

下校する前に真居子には一応、異世界の事を伏せた嘘のない説明をしてみた。


「部活に行けないのはバイトと言うか仕事をしないといけなくなったからなんだ」


「何で急にバイト始めたの?」


 輪太郎と二人になると真居子の態度は少し軟化するから不思議だ。

素直に話を聞いてくれた。


 しかし、日本円で一兆四千四百億円の借金を抱えてしまったからねと言いたいところだが、信じてもらえるわけがない。

それにこの借金で取り戻すのは真居子の魂も入っている。


「ちょっとお金がいるんだよ。それで京子さんとは職場の同僚だから知り合いってだけだよ」


「本当に? でもそうなると仕事の時は京子さんと一緒ってこと?」


「そりゃあ、そうだね」


「じゃあ、私もそのバイトする。連れてって」


「ええ、駄目だよ。少し体を張るバイトだから」


「京子さんが出来るんなら私だって出来ると思う」


 京子は美しさもそうだが、いろいろな事が人間離れした異世界の人なんだよと言いたかったが、言っても信用されないだろう。


「駄目なものは駄目なの、じゃあ、行くから」と輪太郎は逃げるように走り出した。


「やっぱりうーわーきー」と言う真居子の声が追いかけてくるように聞こえてきた。



 パトロールと言っても平和なもので京子とゆっくり散歩するだけだった。

海岸沿いや、田んぼ道、住宅街などを歩いていく。

異世界のものにはリゲンが含まれる。

そして京子はリゲンを感じ取れることが出来るので、歩いて異世界のものが地球に紛れ込んでいないか探しているのだ。


異世界の猫に殺されかけたので、輪太郎は緊張していたが、一時間もパトロールをしていると自然体に戻っていた。

京子と会話を楽しむ余裕も出てくる。


「一つ聞きたいんだけどマヴィスの物価ってどうなの? 食べ物っていくらで買える?」


「パンとかなら100イェンで買えるよ」


「そうなんだ。じゃあ、感覚的に日本円と変わらないかも。金ってマヴィスでは貴重じゃないの?」


「金属の金? そうだね、地球とは違って貴重じゃないかも。硬貨も金で出来ているし」


 そう言って京子はイェンの硬貨を見せてくれた。

1イェンは小粒の金で、100イェンは百円玉のように加工されてあった。

そして重要なのは1イェンは1グラムで、100イェンは100グラムの金で造られていることである。ボスの言っていたことは正しかった。

ただマヴィスでは金の相場が地球に比べて恐ろしく安いのだ。


「いま地球の金の価値は1グラム4800円だからこの100イェン硬貨は48万円の価値がある。おそらく京子さんは地球だと大金持ちだね」


「へえ、そうなんだ。基本、地球に来ることは禁止されているんだよね。だから考えたこともなかったけど、そう考えると面白いね。でも地球のものはリゲンが含まれていないから食べ物は栄養がないし、服とかも脆いからあまり欲しくないんだよね」


「へえ、リゲンがないとそんなものまで違うんだ」


 それを聞いてどうして異世界の人があまり地球に来ないか、その理由が輪太郎にはわかった気がした。

マヴィスの住人は地球に来るメリットがないのである。

生きられる環境ではなく、奪う物もないのであれば来ても仕方がないのだろう。


「私、四人姉妹の次女なの。姉さんはもうお嫁に行って家にいないんだ。近所に住んでいるけどね。両親はもう亡くなったから私が妹たちを養なっているの」


「そうなんだ。大変だね」


「ううん、この仕事に就けたから全然恵まれているよ。大分生活に余裕が出きたから、妹たちは無事に学校を通う事が出来そう」


「妹の二人はまだ小さいの?」


「ユイが15歳でアリスが10歳なの。まだまだお金が掛かるわ、頑張らないとね」


 そう言って笑顔を作る京子は、とても美しくそれだけで心を持っていかれそうである。


 そう言った毎日の中、ラスが遠目に見た蛇を探す依頼が来て、蛇とタコ退治の話に繋がったのである。


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