第一話
第一話
『精霊』それはほぼ無限の時を生きる体をもたない「生物」というよりも「生命」というほうがふさわしいようなものだ。精霊は強大な力を持つ者として古代より奉られてきた存在である。また、精霊にも持つ力が強いもの、あまり力をもたないものがいる。例えばこの世の自然現象を故意におこしたりできるものや、人間の生活が少し楽になる程度のものなど色々な力をもつ精霊がいる。精霊の力を求めて争う国家も多くこのリンシア王国もそのひとつだ。しかしその精霊の力は誰もが使えるわけではない。小さなコップに大量の水は入らず溢れてしまうように、精霊の力もまた
その人の器にあった能力でないと使えないのだ。もしも、無理やり器にあわない力を使おうものなら心体を力に呑まれてしまい自我を失って暴れ回ってしまう。人々はこの状態のことを『悪魔』と呼ぶ。精霊の力を使える人間は非常に少なく、珍しい。契約ができた者は将来が約束されたものとなる。
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頭の中に重低音な男の声が響いたとおもった瞬間物凄い覇気が来る。まるで、空気が棘となって刺さってくるような錯覚さえ覚える程だ。どうやらこの覇気の出どころは祠に奉られた赤黒い宝玉のようなもののようだ。
『我は古代より『強欲』の名を冠した大罪精霊である』
「大罪、精霊、、」
マティは『強欲』の精霊の圧倒的な覇気に思わず後ろによろめいてしまう。
『む、汝なかなかにおもしろい器をしておるな』
『久々に契約して外に出ることができそうだ少し居心地は悪そうだがな、フハハッ 愉快 愉快、』
『我の力は強いぞ世界を好きなようにできるぞ フハハハ』
「ち、から」
『そうだ力だ!』
力、力、力、
マティの脳裏に過去の記憶が蘇る。
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マティには五歳から前の記憶が一切ない。マティの今ある最も古い記憶が蘇ってくる。
マティの住んでいた村には強い精霊がやどっているという言い伝えがあった。それを嗅ぎつけた隣国ブンダス帝国の兵たちが村に攻めてきたのだ。負けじとリンシア王国も兵を出しマティたちの村は戦場となったのだ。結果はリンシア王国が勝ち村を守りきったのだがマティは、逃げる途中で父とわかれてしまったのだ。
燃え盛る戦火のなかでマティ泣いていた。やがて泣き疲れて座り込んでしまった。どれくらい時間がたったのだろうか。
「大丈夫かい?」
頭を撫でられていることに気づきマティは涙や鼻水でぐしゃぐしゃになっていた顔をそっとあげ
る。そこには白を貴重とした騎士服に腰に青色の宝玉が埋め込まれた騎士剣を下げた、短めの金髪にすこし切り目の碧眼の爽やかな騎士がいた。もっとも戦火の中を探していてくれたので白い騎士服も所々黒くなってしまって入るが。
「だ、れ?」
「僕は、リンシア王国の騎士のミトラウスだよ」
「たすけにきてくれたの?」
「そうだよ」
「ありがとう」
マティは笑顔でお礼をいった。そしてミトラウスにおんぶをしてもらい歩き出した。
「騎士ってどんなことをするの?」
「そうだね、敵と戦って人を守ったり国民の皆さんのお手伝いをしたりするかな?」
「へーじゃあぼくも騎士様になりたい!」
「そうか、でもね騎士になるってとても大変なことなんだよ」
「どんなことをすればいいの?」
「強ならなくちゃいけないんだ」
「なら剣をたくさん振るよ!」
「それもいいけれど、それだけじゃあないんだよ」
「そうなの?」
「そうだよ、騎士は心も強くなくちゃいけないんだ」
「心?」
「そうだよ、騎士だから強くないといけないけど力に溺れちゃいけないんだ」
「力に溺れる?」
「そうだよ、こんな力に溺れて関係ない人の命まで奪うようになっちゃいけないんだ」
「うん!わかった!」
マティは父のもとまではこばれミトラウスにお礼をいって別れた。これがマティの最も古い記憶であり、マティが騎士を目指すと決めたきっかけでもある。
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「ぼ、僕はそんな力いらないッ!」
『ほう、おもしろい』
「マティー、マティー」
『誰か来たようだ、此所がバレてはまた面倒くさい輩がやってくる、汝力が欲しければまたくるがよい』
そんな声が響いたかと思うと途端に洞窟を包んでいた覇気がなくなり、奥の祠も消えていた。
「ッはぁはぁ」
「と、父さん」
「おい、マティこんなところにいたのか」
「早く帰るぞ」
「う、うん」
探しにきてくれたオーダスとともに家に帰えっていくマティであった。