表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

第5話 「趣味悪いことしよって……!」

ちょい長め

 一通り説教を終えたエルザードは、“正義の花園(ロスパラディージ)”にいるライラック―――エルザード率いるグローリアの副長(サブリーダー)に念話をかけていた。


「……ライラック、僕や。エルザードや。

 そっちにリリィとピオニはおるか? ……さよか。ほんなら、その仕事片付いたら一旦こっちに回してや。出現座標は、僕の存在位置をトレースしてもろて。……ほな、頼むで」


 エレベーター係を待つ間、エルザードにできるのはランドルフを拘束し見張っている事だけだ。しかし、そのランドルフは重罪人と言っても差し支えない状況。一度振りきられているエルザードにとって、微塵も油断はできなかった。


「……して」


「あ?」


「どうして悪魔を排除してはならないんです? 天使としての誇りを忘れて地に堕ちた……いや、地の底まで堕ちた上に、生き物の魂を喰う害悪でしかないのに……」


 捕らえられた天使見習いは、ポツリポツリと呟く。


「そら、連中にも需要があるからに決まっとるやろ」


「……なんですって?」


 初耳だ、といった感じでランドルフは訊き返す。この辺りも教育機関で教える内容のはずなのだが……どうやら彼は都合の悪いことは忘れてしまう(たち)らしい。エルザードは深いため息をつきながら、改めて説明する。


「重犯罪者やら狂人やら。そういった人間は、悪魔に喰うてもろてその魂を『終わらせる』必要があんねん。穢れた魂を輪廻の環に戻すわけにはいかへんからな。

 僕らは魂に干渉でけへんし、悪魔も食事を摂ることができる。どっちにもメリットがあんねんから、お互いできる事しましょうって考えや。

 無闇やたらと狩ってええ連中やあらへんねんで」


 この制度は当然、和平条約制定後にできたものだ。


「でも、悪魔と協力だなんて……そんな事、あっていいはずがない」


「……なぁ。1つ訊きたいんやけど、なんでそこまで悪魔を毛嫌いするん? ジブンの関係者が、殺された訳でもあらへんのに」


 ずっと前から抱いていた疑問を、エルザードはランドルフにぶつけてみる。教育機関に入学した際はそうでも無かったはずなのだが、最近になって突然悪魔に敵対心を抱くようになった。その理由が、どうしても分からなかったのである。

 一方、ランドルフはキョトンした様子で、


「……? 悪魔を排除するのは当然の事でしょう?」


「……ジブン、話聞いとったか?」


「もちろん、聞いてましたよ。悪魔は無闇に排除しちゃ……あれ? でも、悪魔は問答無用で排除しなきゃいけないんじゃ……」


 ぐるぐると、2つの『常識』がランドルフの頭の中を駆け巡る。二重人格と診断された事はない。が、背反するはずの2つの知識には、なぜかどちらも納(・・・・・)得がいった(・・・・・)


(……ん? なんや、この違和感……)


 そして、ランドルフが思い悩む様子は、エルザードの記憶を掠めていく。


(この状況、どっかで見たような……まさか!)


「理由無く排除するのは条約違反……でも悪魔を排除しないと人間界が………ぐっ!? がっ、ああああぁぁぁぁあああああああ!!!!!!」


 エルザードが思い当たる記憶を見つけ出した、その時。ランドルフは突然、酷い頭痛に襲われる。両手を拘束され動けない彼は、そのまま地面に倒れこんでしまった。


「っ、おい!? 大丈……ぐっ!」


 倒れたランドルフにエルザードが駆け寄るが、彼の体は尋常ではない量の神聖力によって吹き飛ばされる。同時に、エルザードが直々に施した手枷も破壊されたようだ。普通なら『なぜ見習いにこれほどの神聖力が』となるところだが、既に原因をつきとめたエルザードにとっては、答えの裏付けにしかならない。


(……普通ならあり得へん鋭さの魔力感知)


 “正義の花園(ロスパラディージ)”に所属する前段階にも拘わらず、この見習いは第三位のエルザードよりも早く悪魔を見つけた。


(見習いのもんとは思えへん程の神聖力)


 レオンと共に切磋琢磨し、力を磨いてきたエルザードがかけた手錠を、ランドルフは神聖力のみで吹き飛ばした。しかもその神聖力(ちから)の波長は、ランドルフのものではない。


(極めつけは、植え付けられた(・・・・・・・)としか思えへん、もう1つの『常識』)


 これらから導きだされる結論はただ1つ―――。


「―――洗脳、それに遠隔操作か。ようやってくれたな、(パヴェーラ)(=)(イグナッツァ)!!」


 エルザードの声に返答は無い。だが、彼はパヴェーラこそが黒幕だと確信していた。

 パヴェーラ=イグナッツァは、『聖光(ヘヴン・)天列書(ヴァルキリュエ)』第二位にして強硬派筆頭の女天使だ。彼女の得意技は精神干渉で、殊の外『相手の常識を改変する』事に長けていた。……そう。以前エルザードが見たパヴェーラの技が、今のランドルフの状態に非常によく似ているのである。

 加えて、ランドルフの体から漏れ出るパヴェーラのオーラ。目を凝らしてよく見てみると、細い糸のような神聖力がランドルフから伸びているのが分かる。恐らくは、これでランドルフを操っているのだろう。


「趣味悪い事しよって……!」


「……ウルヴィアーラさん。やはりあなたは間違っている」


 ふらふらと幽鬼のような足どりで、ランドルフはエルザードに迫る。


「いくら人の魂を喰わなくたって、人間界の生物の魂を喰うのなら、バランスを崩していることに変わりはない」


「それを調整するんも僕らの仕事や。牧畜なんかはまた別やけど、人間よりそれ以外の方が、格段に調整が簡単やからな」


「『人間より調整が簡単だから』なんて理由で、悪魔が魂を喰らう事を、ウルヴィアーラさんは是とするんですか。ヒト以外の魂はどうでもいいと」


「アホか。できるんなら僕だって、全ての魂を守りたいに決まっとるやろ。せやけど、これは条約締結時にお互いギリギリまで譲歩した結果やねん」


 最大レベルで警戒をするエルザードの前に、ランドルフは立ち塞がる。彼の虚ろな瞳の奥には、憎悪の炎が燃え盛っていた。その憎悪が向く先は、敵視する悪魔か―――はたまた、自らの邪魔をするエルザードか。


「全ての元凶を取り払えば、バランスが取れると思いませんか?」


「今のこの状態が、一番安定しとるんや。悪魔の存在も含めてな」


「……その考え方はもう古い」


「浅い考えよりはマシやと思うけどな」


「あなたの眼は曇ったようだ」


「何も見えとらんひよっこがなに言うとん」


「……あなたに何が分かる!」


 ランドルフはそう叫ぶと、エルザードの顔面めがけて拳を放つ。

 いくらパヴェーラに強化されているとはいえ、エルザードも第三位だ。当然のように掌で受け止め、ひどく冷たい声で宣言する。


「……ランドルフ=ビローダレン。『聖光(ヘヴン・)天列書(ヴァルキリエ)』第三位の権限の(もと)に、天魔和平条約違反、並びに反逆罪で拘束する」


「やれるものなら、やってみろ!」


 『聖光(ヘヴン・)天列書(ヴァルキリエ)』の第一位から第九位、通称一桁順位(シングルナンバーズ)と呼ばれる彼らには、緊急時に限り、他の天使への特別逮捕権が認められている。もちろん不当に使えば即刻堕天は免れないが。エルザードはこの権限を行使し、ランドルフの身柄を拘束する正当な理由を作ったのだ。

 ランドルフは掴まれている右手を振りほどくと一旦跳びすさり、再度エルザードに突進する。エルザードはギリギリのところで何とか避け、次の攻撃に備えた。強化されたランドルフの身体能力が、自分のそれを上回っている事を知っているエルザードは、始めからカウンターでの攻撃を狙っていたのだ。

 しかし。エルザードは1つ読み違えている事がある。それは、ランドルフの目的が突進による(・・・・・)攻撃ではない(・・・・・・)という事。彼の狙いは元より、


「っ! しもた!」


第二位から第九位にのみ支給される、強力な鏡(・・・・)

 ランドルフがしようとしていたのはエルザードへの攻撃ではなく、彼が持っている鏡―――銘は『破鏡・炎天』―――を奪う事だったのだ。


「クソッ、鏡を渡せ、ランドル―――ッ!?」


 『炎天』を取り戻そうと、ランドルフへ駆け出すエルザード。しかし、彼が足を踏み出した途端、四方及び上方には壁が形成される。


(んなっ―――)


 ッドォォォオオン!!!


 密閉された箱の中で、大爆発がエルザードを襲う。彼は咄嗟に神聖力の鎧で身体を守るが、それでも少なくないダメージを受ける事は避けられなかった。

 爆発で巻き上がった粉塵が収まると同時にエルザードは内心で吐き捨てる。


(ク、ソがっ……そこまでして戦争がしたいんか、野郎共ッ……!!)


 壁で足止めしてからの爆発、という戦法は、ランドルフでもパヴェーラのものでもない。『聖光(ヘヴン・)天列書(ヴァルキリュエ)』第四位にして強硬派の1人、アングリアス=ルムルトのお家芸だった。彼は多種多様な搦め手を専門として使う男で、『策謀巣窟(ブービー・トラップ)』の異名を持つ。戦闘能力は高くないが、敵の邪魔をする事にかけては誰よりも秀でていた。

 そして、エルザードが自由を奪われている今、ランドルフを止める者はいない。


「……ク、ハハ。ハハハ! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!

 この世に悪魔など必要ない。奴らの存在そのものが大罪! そして罪は罰せられなければならない。罪を罰するのは誰だ? 俺達天使だ! つまり俺が悪魔を殺しても何の問題も無い。寧ろ称賛されるべきだ。全部全部全部全部――!」


 そう言いながら、ランドルフは自身の神聖力を『炎天』に充填していく。本来なら『列鏡シリーズ』―――第一位以外の一桁順位(シングルナンバーズ)が持つ強力な鏡の総称―――に必要な神聖力は、見習いどころか二桁でも到底足りない。だが、ランドルフの場合はパヴェーラによる神聖力の増幅(ブースト)がある。今の彼には、『炎天』を操るのに十分な神聖力(エネルギー)が備わっていた。

 その事実は、『炎天』本来の使い手であるエルザードが一番よく分かっている。さすがのレオンも、『列鏡シリーズ』を食らえばひとたまりも無いだろう。エルザードは、声の限り叫んだ。


「ルーデンバイア! 伏せぇぇっ!!」


 しかし、届かない。

 アングリアスが形成した壁は、ただの物理障壁だ。空気や音を通さない訳ではないのを分かっていたためにエルザードは叫んだのだが問題は別のところにあった。

 レオンが張った遮音結界。複雑な転移術式を組むのに際し、集中を乱されぬようにと展開したそれが、逆に仇となった。

 そうこうしている内に、神聖力の充填が完了する。




「全部貴様らが悪いんだ! 下賎な悪魔風情がァァァァッッッ!!!!!」




 閃光。

 そして轟音。

 莫大なエネルギーを伴いながら、巨大な光の筋がレオンへと迫っていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ