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第1話 「当たらなければどうという事は無い(キリッ」

上演及び小説化された「エンジェル・ラヴァ―」の登場人物、レオンの過去のお話です。

「腹減った……」


 魔界に棲む上級悪魔(グレーターデーモン)、レオン=ルーデンバイアは空腹だった。


「だから一緒に鹿の魂を食べれば良かったのに。蜘蛛の魂なんて、お腹も膨れないでしょう?」


「黙っていろヴェスティベート。そんなもの私の勝手だろう」


「はいはい。でも、上級悪魔のあなたがそんなじゃ下級悪魔(レッサー)達に示しがつかないでしょ。ほら、シャキッとする!」


 バシッ、とレオンの背中を叩くのは、彼と同じく上級悪魔(グレーターデーモン)のリディア=ヴェスティベート。身長は170㎝に届かない程度、大人びた顔立ちで、黒く艶やかな髪をそのまま後ろで流している。

 彼女は、レオンの50年来の友人であり、姉のような存在でもあった。


「それと、名前で呼んでっていつも言ってるじゃない」


「……断る。性に合わん」


「むぅ……」


 リディアはレオンに一年ほど前から、自分の事を名前で呼ぶように要求していた。一応レオンもファーストネームで呼ぶように努力はしている。だが、結局は今まで通り『ヴェスティベート』と呼んでいるのが現状だ。

 別段、深い理由はない。単純に恥ずかしいだけである。今でも頑張って、名前で呼んでやろうとしているが、レオンの意思と羞恥心とではいつも後者に軍配が上がった。

 そんな様子は微塵も見せず、レオンは続ける。


「話を戻すが、なぜ我々上級悪魔(グレーター)悪魔将軍(ジェネラル)の方々のような気高き存在が、下級悪魔の世話などをせねばならんのだ。おかしいだろう?」


「天使との和平条約を知らずに、人間を食べちゃう子も結構いるのよ。条約違反の責任を取って悪魔将軍(ジェネラル)様や悪魔公(デューク)様が消滅させられる、なんて事が起こったら、今度はどんな条約を結ばされるか分かったもんじゃないわ」


 悪魔には、天使のような戒律は無いものの階級は存在する。下から順に、


 ・最下級悪魔(ミニマムデーモン)

 ・下級悪魔(レッサーデーモン)

 ・上級悪魔(グレーターデーモン)

 ・悪魔将軍(デーモンジェネラル)

 ・悪魔公(デーモンデューク)

 ・悪魔王(デーモンキング)


 となる。

 基本的に階級が下の者が上の者に、逆らう事は無い。階級差と力量差は比例しており、もし反抗などしようものなら圧倒的な力によって一瞬にして消滅させられるからだ。

 組織化されている訳ではないものの、究極の縦社会、というのが悪魔達の実情なのである。


「そんなもの、人間を喰ったそいつを処分すればいい話だろう」


「相手はあの天使共よ? そんな簡単に話が済むはずがない。それに、これ以上私達の勢力が弱まったら、その隙をあいつらは必ず突いてくるわよ」


 天使・悪魔間で結ばれた条約の主な内容は、「悪魔が人間を捕食する事を禁ずる」というものだ。もし悪魔がこれに違反した場合、天使はその悪魔に制裁を加えることが認められている。


「ならいっそのこと天使に今度はこちらから天魔戦争(ハルマゲドン)を仕掛けるのはどうだ?」


「アホ。そんなことしたら天使長が持ってる『聖鏡』でサクッと殺られるのがオチよ。ただの鏡でさえ、私たちにはキツいんだから」


 天魔戦争(ハルマゲドン)

 約3000年前に起きた、天使と悪魔による全面戦争。断続的ではあるものの天界暦109年から209年まで続いたため、天魔百年戦争と呼ばれることもある。天界と悪魔界の区別がまだなかった頃、悪魔の掃討を目的とした天使達から仕掛けたものだが、その戦力は悪魔陣営が僅かに上回っていた。

 悪魔の猛攻により、前線は天界の本拠地まで後退。その撤退戦の最中、1人の女天使が地に足をとられて転倒してしまう。好機とばかりに悪魔が襲いかかった、その時。彼女が落とした手鏡から光が発せられ、悪魔の核を撃ち抜いた。

 核を消滅させられた悪魔は即死。この事が劣勢だった天使陣営に希望をもたらすことになる。

 悪魔の弱点は鏡、という情報は、瞬く間に天界に広がっていった。そして、その知らせを聞いて立ち上がった、1人の男がいた。彼の名はヨーテル。天界一と噂される鏡職人にして、殺されかけた女天使の夫でもあった。

 ヨーテルは鏡という概念そのものに天使の聖性を持たせるため、自分の瞳を埋め込む事にした。当然彼の関係者達は反対したが、彼は「たとえ俺が光を失っても、この天界が光を取り戻すなら本望だ」と言って、2枚の大きな鏡を作り上げる。これこそが、敗れかけていた天使達を勝利へと導いた聖なる鏡、『聖鏡・風天』と『聖鏡・雷天』である。

 2枚の『聖鏡』は現在、全天使のトップである〔天使長〕シェルヴィ=フラッド=ブレイズハート、及び『聖鏡』を作成した功績としてヨーテルの子孫であるプライダール家が保管している。


「当たらなければどうという事はない(キリッ」


「誰もがあなたみたいに鏡の射線を避けられる訳じゃないの」


「ならば―――」


「レオン」


 新たな案を出そうとするレオンに、リディアは彼の言葉を遮って言った。



「あんた―――単に面倒くさいだけでしょ?」



 その言葉と共に、リディアは2人の足元にある物体を指差した。

 ソレは、堕天したての天使。

 即ち、生まれたばかりの悪魔。

 レオンやリディアに『面倒を見る義務』を発生させる存在が、そこにいた。どうやら女性らしい。


「……ん………」


「あら、目が覚めたみたいね」


「………、ッ!?」


 数秒ほど寝惚けた顔をしていた彼女だが、見知らぬ顔があると知って素早く飛び退く。その反応速度は、最下級悪魔(ミニマム)にしてはいいものだった。


「……誰?」


「私はリディア=ヴェスティベート。上級悪魔(グレーターデーモン)にして、あなたの教育係その1よ。……ほら、レオンも」


「ふんっ、誰がそんなこt」


「えい」


 レオンが最後まで言葉を発するのを待たず、リディアの手は彼の顔面を鷲掴みにした。


「ギャアアアアア痛い痛い痛い痛い割れる割れる割れる潰れる潰れる分かったからその手を離せぇっ!」


 レオンの絶叫ののち、文字通り悪魔の手が彼の顔から離れる。


「……レオン=ルーデンバイア、上級悪魔(グレーターデーモン)だ」


「……私に、何の用?」


「言ったでしょ? 私達は教育係。あなたを眷属にして、悪魔としての知識を叩き込まないといけないの」


「……必要ない。私は私の好きなようにするだけ。悪魔としての知識なんか―――」


「『自由気ままで自分勝手な行動』が堕天の理由かな? 天界(あそこ)は、出る杭はとことん打たれるからねー」


「っ……、あんたに何が分かるの」


 突如。

 今まで温和に話していたリディアから、尋常ではない程の殺気が溢れ出す。


「自分の立場を弁えようか、最下級(ミニマム)? 私達は教育係ではあるけれど、都合の悪い存在なら誰であろうと容赦なく消すわよ?

 例えば、言うことを聞かない不穏分子とか、ね。勝手に動かれても、こっちとしては迷惑なのよ」


「………ッ!!」


 これは、勝てない。

 リディアの殺気が名も無き悪魔を包み込んだ時、彼女はそう悟った。

 絶対的な、恐怖。

 心の奥底に刻み込まれ、決して消えぬであろうソレは、彼女の行動を決定づける。

 その選択肢の名は、『服従』。新米悪魔は膝を付き、頭を垂れた。


「(……さっき勢力が弱まったらつけこまれる、って言ったのはどの口だろうな)」


「レオンは後でもう一回アイアンクローね」


「この悪魔め……」


「そりゃあんたもでしょうが」


 レオンにとてもイイ笑顔を見せてから、リディアは殺気を切る。その途端、全てが押し潰されるような重圧が消え去った。


「さてと。じゃあまずは、あなたの名前を決めないとね」


「名前……」


「そう。悪魔が他の悪魔を眷属にするには、名付けを行う必要があるの。そうする事で、存在が安定するのよ」


 悪魔や天使は、肉体という枷に縛られない精神生命体。その代償として簡単に消滅し得る体を持つ彼らにとっては、自身の存在を安定させる事は何よりも重要なのである。


「う~ん……レオン、何かいいの無い?」


「私に訊くな。というか、この最下級(ミニマム)を教育する事に関して了承した覚えは無いぞ……」


「いいじゃない。教育って言っても、大半は私がやるし」


「なら、私は別にいらないだろう」


「なに言ってんの。あなたにやってもらう事だってあるわよ、戦闘とか」


 さも当然であるかのように言うリディア。これはもうどうやっても逃げられない。そう悟ったレオンは、諦めの意味を込めて深いため息を吐いた。


「……名前、か。そう言えば、『今日は人間界で大きなイベントがある』と、ガスティの馬鹿が騒いでいたな」


 ガスティとは、レオン達の共通の知人である。どこにでもいそうなお調子者の悪魔だ。


「あぁ、クリスマスの事?」


「そんな名前だった気がする。そこからとったらどうだ?」


「クリスマス……聖夜……うん、いいわね! 決めた!」


 生まれたての悪魔に、リディアはビシッ! と指を差す。そして彼女に向かって高らかに『名付け』た。


「あなたの名は、ノエル。今日から『ノエル=アリークレット』を名乗りなさい!」

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