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憎い

自傷、自殺の表現あり

 犯人は大抵ここで……。

 説得されて涙ながらにお縄になる。

 ……のは、絶対嫌だ。

 おい。何呆けてる。マスクマジック無しのメイク落とした顔だからか! 失礼な奴等め!


「……っ! 巫女っ! 何故?」


 は? 何故?


「どうして?!」


 どうして? だと?


「何故どうして……? 単純だよ。私の全部を奪っておいて、偉そうに楽しく仲良く暮らすお前ら全部が気に食わない。なんで恩も義理も無い憎しみしかない奴等の犠牲にならなきゃいけない? 穢れ? この星の自浄作用だったんじゃない? 人類を間引く為の。そのまま滅べば良かったのに、余所の世界にまで迷惑かけやがって。……ふざけるな? お前らみんなそのまま消えちゃえば良かった。そんなお前らだから、この星にいらないって言われてんだよ!」

「……み」

「もうお前らと同じ空気吸うのも吐き気がする。視界に入れば目が腐りそう。声を聞けば頭痛がする。最悪だよ。最後に見るものはこの光景だけが良かったのに」


 あぁ、様を見ろ。信じてたものに裏切られたとか言う顔して……。少し快感。

 どんだけめでたい頭だよ。


「バイバイ。嘘つきの誘拐犯共」


 横に見える崖の終わりに走り出す。

 折角痛いのヤだから、薬手に入れたのに。最後の最後までどこまでも邪魔をする害虫みたいだ。

 下を見れば、とても深い渓谷。

 いざ! アイキャンフラーイ!

 ひぃぃ、痛いのヤだな~。頑張れ、ここは私の生きる場所じゃないんだから。


 バッと身を飛び出して胃がギュッとなり、恐怖から目を瞑る。

 あ、ここまで来たなら顛末を聞けば良かったかな? いやきっとどうにもなってないだろう。事務歴たった3年のOLが立てた穴だらけ計画だしな。なってたらなってたで――――ラッキーだわ。


 ……?

 …………ん? 

 …………………あ? え? は?


 身体にかかる筈の重力が、無い。

 え? どゆこと?

 目を開ければ、自分の回りに薄い膜が丸く張ってゆっくり下降している?!

 私、何もしてませんけど?!

 落ちた所から少し下がったけど、上を見上げれば何人かが手をこちらに伸ばしている。

 まだ捕まえる気? マジかよ。冗談じゃない。腹立つから捕まえて罰しようとか? 最悪。

 とりあえず叩くけど、ボヨンボヨンしてて無駄。

 ナイフを創造して突き立てるけど刺さらない!

 どうしよう、どうしよう!

 もうあいつらの顔見るのも嫌なのに!

 あ、ナイフ……結局痛い思いかぁ。もういっそあのアホ共を刺したいよ。

 攻撃魔法は使えない。私が使えるのは小さい火とか生活用の魔法と、治癒と浄化と、自分改造くらい。

 ナイフ痛いな、くそったれ!

 自分の左手首に向けて、ナイフを振りあげる。


「巫女っ! 止めてください!」


 煩い。耳障りな声が複数聞こえてくる。

 あぁ怖い、意気地はない、大量虐殺も厭わない覚悟があったのに、自分で自分を傷付けるのは躊躇うなんて女が廃る! ぐさ……。


「いったぁあああ?!」


 くっ、でも浅い。きっと動脈まで届いてない……? お、おぉ? ドクンドクンと鮮やかな血の色。痛い! マジで! 心臓が手首にあるみたいだ。

 時間はかかるけど、この速度で下の川まで辿り着くのが早いか、失血死が早いか。


「う~、そういや、私血苦手だった。気持ち悪い」

「だったらやんなよ! 馬鹿か!」

「馬鹿ですよ~。お前らに良いように利用されて、癪だからぶっ潰そうとした馬鹿ですよ~」


 何故か、大分離れた筈の崖の上の奴等の声が鮮明に聞こえる。まだたいして失ってない筈なのにくらくらしてくるのは、単純に血が苦手だからか。透明の膜の足元に血が溜まっていく。目を瞑って、とりあえず手を心臓より下にする。よく出血すると上に上げろと聞くから、反対はさぞだくだく出てくれることだろう。


「気持ち悪い。吐いたら、足元に溜まるのか。マジで嫌だ。本当、最後の最後までろくなことしない害虫共が」

「っ、」

「だいたいさ、私達を救ってくれてありがとうとか、じゃあ私は誰が救ってくれるのかねぇ。クソ王はアッサリ帰さない宣言だしよ。マジで滅べよ。腐れ国家」

「……」

「みんな、みーんな、死ねばいい。良いじゃない、自分の亡骸の傍で泣いてくれる人いるんだから。私は一人もいない。全員で死んでも良いじゃない。生まれ育った世界で、その土地の一部になって自分達が信仰する神様の元に逝けるんだから。信仰もしてないし、寧ろその神憎んでる私は……私は、どこいくんだろ? か……えり、たい……よ」


 頭がボーッとしてくる。てか、出血の勢いが弱まってる? こんな痛い思いして、途中で止まるとか止めてくれよ?

 何か、ぎゃーぎゃー周りが煩い。

 何か、意識が遠く……な、る……。

 

「――――あぁどうしてこのような」

「俺らのせいだろ」

「っ、何故……何も言ってくれない」

「言える訳ねーだろ、俺らはコイツの敵認定されてんだから」


 煩い。


「王は何故あのような事を」

「今まで貢献し過ぎた、手放したくなくなった」

「……そんな」

「つまりコイツは、自分で自分の首絞めたんだ」


 おう、マジか。


「つーか神官さんよ、本当にコイツが帰れる方法があるのか?」

「……実は、私は聞いた事がありませんでした。実際は王だけがそう言っていて、黙秘の王命を」


 あぁん?! やっぱりかよ、チクショウ!


「やっぱりなぁ。ずーっと帰る帰る言ってるからおかしいと思ったんだよ。召喚に関わった魔術師達に何の動きもなかったし」

「巫女は……帰れない?」

「あぁ、ハナっから無かったんだよ!」


 それは、さぞかし滑稽だったろうな。

 帰れない。会えない。戻れない。

 マジでお前ら、くたばれ。


「巫女?」

「起きてんだろ? 目を開けろ」


 お前らかよ。針ネズミにユキちゃんに神ちゃん……あれ? さっきもう一人知らない奴がいたけど?


「おい! 聞こえてんだろ?!」

「巫女? 一先ず城へ戻りませんか?」

「帰ろう」


 どこへ帰る? 帰る場所などない。

 これから自分で作らない限り、この世界にはない。

 そして、作る気もない。

 何故意識があるとバレたのかと思ったら、私は閉じた目から泣いていた。箍が外れて出やすくなったか、本当に帰る手段がなくて出たのか。

 ゆっくり、目を開けると見たくもない3人。


「っ……おい、何か言えよ。それともまんまと王に騙されて悲しくて声も出ねぇか?」


 立ってる3人に顔を向けて言う。


「消えろ」


 目を見開く3人に、こっちがビックリする。城へ連れて帰ってまた良いように利用されるのか、最悪な人生だ。いっそ王を弑し奉って差し上げようか? 王の頭吹き飛ばしたら、……駄目だ余計追い掛けてくるわ。


「っ、お前よ、本当に死んでも良いと思ってんのか?! お前見捨てられんのか? 実際に皆生きて必死で生きて何の罪もない奴等がどうでも良いと本気で思ってんのかよ! お前、最低だな!」

「やめろ」

「巫女っ、貴女の苦悩に気付けなくて申し訳ありませんでした。それから黙っていた事も。お願いです。1度城に戻り、これからの事を話し合いませんか? 帰る方法も見つかるやもしれません」


 死んでも帰らんよ。

 針ネズミ、罪のない? 私は、罪があったの? だからお前らに全部奪われたの? 本気でどうでもいいと思ってるよ。冗談じゃない。

 私にとってお前らは、害虫そのものだ。


「……」

「何か言えよ! エセ巫女!」


 スッと左手を見ると、包帯が巻かれ赤く滲んでいる。足りなかったか、結構痛い思いしたのになぁ。

 また刺すのはちょっとな、薬、どこかで調達するか。


「死ねなくて残念だったな。お前は死なせない」

「俺も、巫女を死なせたくない」

「巫女、もうあのような事はお止めください。命はそんなに軽々しく投げてはいけない」


 うるせーよ。日本の私を殺したくせに。


「巫女? 何か仰っては頂けませんか?」

「おい! 恨みでも何でも良いから話せ! 口もききたくないほど嫌なのかよ!?」

「巫女」


 話したじゃねぇか。さっき、消えろって。それだけだよ、お前らに望むのは。このままじゃ、城に強制連行か。どうやって抜け出すかなぁ。

 面倒くさい。全部。盛大なため息が出る。

 むくりと起き上がると、少しクラっとする。

 手を伸ばしてくる針ネズミの手を身を引いて避け、蔑んだ目を向けたい。難しい蔑んだ目って。ゴ○ブリ見付けた時の顔をしておいた。

 何故か痛そうな顔をしているが、私の心は何も感じない。寧ろスッとする。

 ゆっくり起き上がると、少し目眩。 

 見渡すとどこかの洞窟のようだ。そういやあの知らない奴はどこいった? まさかの監視役だったのかな?

 フラフラと洞窟を出る。水の音がするので、あの崖の下のどこかのだと分かる。

 さて、これからどこに行こうか。

 誰か私を即死させてくれないかな。

 この世界の空気を吸ってるだけで、肺が満たされて吐きそう。

 ああ、憎い憎い憎い。全てが、憎い。

 

「……こんな世界消えればいいのに」

「っに、言ってんだ、てめぇは!」

「やめろ! 巫女、巫女暴れないで、落ち着いて」


 針ネズミに肩を掴まれ、後ろに引かれる。

 貧血も手伝って、足元がふらつき後ろに倒れ……るかと思ったらユキちゃんに抱えられる。伝わる体温にゾッとして、暴れる。傷がジクジクとまた拍動と共に痛み出す。

 

「巫女! 傷口からまた出血が! 動いては駄目です!」


 神ちゃんも加わってきた。近寄るなよ。気持ち悪い。触るなよ、吐き気がする。本当に吐き気が出たので、口元を押さえ下を向く。 


「ぐっ、うぇ」

「巫女? 吐きたいなら吐くといい」


 お前に触られてゲロ出そうなんだよ。

 背中を擦る手を払い、ユキちゃんを睨む。

 うげうげするけど、胃液が上がって食道が焼かれただけだった。そういや、2日くらい殆ど食べてなかった。目眩も酷くなり、気絶しそうになったが意識ない内に城に戻されそうな気がして、傷を噛んで耐えた。ほんっとーに痛い!


「巫女何を!」

「はは……狂ったか?」

「巫女やめろ!」


 口々に何か言いながら3人が近付く。

 目で睨むが、全く効果がない。あークソ。メデューサみたいに石化光線とか出れば良いのに。


「ぅ……いっ」

「巫女、傷口を癒して下さい。お願いです」


 神ちゃんは、治癒とか使えない。純粋なお祈りだけの神官だ。今ここで治癒を使えるのは、私だけ。

 傷が開いて、血が滴る。口の中に鉄の味。

 それをボゥッと見ていると、針ネズミがぐっと腕を取り傷の上を強く縛った。引いても離さず、ユキちゃんが傷を新しい包帯で巻き始めた。


「は、良いねぇ。アンタのそういう顔が見たかった。言えよ、言いたいことあるなら腹ん中のもん全部ぶちまけろ!」

「どうして、こんな」


 針ネズミは私を挑発し、ユキちゃんは傷を見て泣きそうな顔。でも、私はそれを見てるだけ。いい加減、3対1は敵わない。何とか逃げ出さないと。

 でも今目を閉じたら、完全に意識が無くなる。

 

「……そういや、あれから国がどうなったか知りたいか?」


 ああ知りたいね。


「王は失脚。お前が使えなくしたものの穴埋めに宰相らが頑張ってるよ。諸外国にまで巫女を虐げたと非難が来てる。どの国も、お前が国から出たと知って血眼になって探し回っている」


 王は失脚。それを聞いて私は――嗤った。

 

「先ずは復讐完了ってか?! ふざけるな! 民に慕われた賢王だった。なのに、お前はっ」


 私の狙いは、王には足らないと呼ばれるクズ王弟が王になる事。民は自分の為にあると金を湯水のように遣い込み、女と見れば手当たり次第。お子様も多そうだ。あれが王になれば、国は傾くだろう。

 私は二度嗤う。


「お前は本当に何がしたかったんだ。あんなに施しをして、聖母ようだと慕われ、王妃の無い王に傍にと望まれ、何が不満だったんだ?」


 気付いてないのか? 馬鹿の振りか?

 そんなもの塵の価値もない。

 私は嗤うだけ。


「っ、おい、何か答えろよ!」

「やめろ、そもそも巫女をここに何の承諾も無しに連れてきたのは我らだ」

「巫女、言いたい事は全て聞きます。どうか我らと戻って頂けませんか? そうでないと、貴女の身も危険なのです」


 今度は脅し? 危険も何も、死ぬつもりだからどうでもいい。


「そうやって貴女はいつも本心を隠す。1度でも打ち明けて下さらない。だから我々は間違えたのです。どうか、もう1度やり直す機会を与えては下さいませんか?」


 煩ぇな。初めから人として扱えば分かることを。

 大体刃物持ってる奴等に囲まれて、あれやれこれやれ言われたら、何にも言えないわ。

 まだ帰れると思ってたから。バッサリ切られるよりは従って帰れる日を待った方がいいと。でも、帰れないならバッサリやられた方が良かった。ちまちま陰険に報復をするんじゃなくて。

 いい加減、失血死の前に意識が無くなりそう。

 あー、煩い煩い煩い。


「……傷口を洗って治癒してくる」

「巫女っ! あぁでは共に戻ってくれるのですね? 良かった。今戻れば!王の失脚も止められる」

「おい、信用出来ねえここで洗え」


 そう言って、掌から水球を出す。

 

「……。お前が出したものなんかで傷口は洗えない。毒でもいれらそう。何より気持ち悪い」

「なっ」


 ふらっと川の方へ。手を貸そうとユキちゃんが私を支えるが、それを振り払う。

 傷付いた顔をするが、どうでもいい。


「巫女、危ない」

「煩い」


 川の近くにしゃがみ、包帯を解く。左手首を出して右手で水を掬う。……川の水とかバイ菌入って死にそうだなと思いつつ、あ、死ぬからいいかとそのまま身体を傾けどぼんと川へ落ちる。

 水死体って見るに耐えないのに……マジで奴等は害虫だ。

 みこぉ! とか、ボッチャンとか聞こえてくるけど、もういい加減諦めろやと思いつつ、結構な川の流れに身を任す。

 また意識が遠退く。

 ほんとマジで頼みますよ。早く還らせてくれよ。



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