嫌い
先の展開思い付かない。
寒気がする。
「今日もなんと美しい。その絹の糸ような髪、触れても良いか?」
「私の国では髪は命と申します。ご容赦下さい……」
普通に髪触られるの嫌だよね? てか、誰?
「貴女のそのきめ細やかな肌、この手はリュンヌ(何か魚)の様に美しい。この手に触れる栄誉を頂いても?」
「まあ、ありがとうございます。ですが、私の世界ではみだりに異性と触れあうのは良しとされず、慣れておりませんので」
大昔どっかの国でね。
リュンヌって何だよ。何かヌルヌルしてそうだな。……吐き気がする。
「その控え目な態度。奥ゆかしくいじらしい。私の妻になってはもらえまいか」
「そのような事を仰ってはいけません。私はここでは異質な者。貴方様に似合いの方がきっとどこかで見つかりましょう」
それ、前に出る女は俺様苦手、大人しいのが御しやすいって言ってるもんだ。馬鹿か。
「君の声に溺れそうだ」
「マァ、ウフフ……」
さぞかし騒音だろうね。
「可愛らしい貴女の雰囲気に癒される。どうか、ずっと傍にいて私を癒して欲しい」
「私などには、そのような大役とても務められませんわ。貴方を真に癒して下さる方に会える日を祈っております」
た~すけて~。誰か手榴弾ぶっち込んで~。
語録が尽きたよ~。
手榴弾が無いなら、小麦粉ぶちまけて~!
着火して、こいつら諸とも吹っ飛ばす。
「貴女の事しか考えられない。一体どんな魔法で僕の心を捉えてるんだい?」
「マァ、ウフフ。人の心を操る魔法など、恐ろしくて出来マセン」
人聞き悪いこと言うな? それやったら普通に犯罪だ。特に本気で魔法があるこの世界では――。
今、地球じゃない世界にいる。
なんちゃら~世界に穢れが増えて危機だ! 異世界から巫女を呼べってんで、いきなりここに落とされた私。浄化の力があるとかで、のんびり馬車の旅で酔って吐いて腰痛めながら各地を回らされ、よく分からん神に祈って浄化をしてきたこの3年。
粗方終わって、褒美は帰還。
つか、褒美じゃないよね? 誘拐犯が良いように私を利用し尽くして終わったから帰すってだけ。
実質、褒美無いよね?
しかも、帰還の約束もなんだか不穏。
あと3日で帰れるってのに、ここにいろ嫁になれの見目麗しい人からの美辞麗句攻撃。
落とされた当初から、旅の間は何も言って来なかったのに、ここにきて吐き気がする程の褒めちぎりよう。甘い言葉や口説き文句に、寒気がするほど嫌悪しか出ない私には、言われるたんびに鳥肌。
本気で帰れなかったら嫌だなあ。
もう3年。
そろそろ化け猫被り続けるのはキツイ。
やっと頭おかしい集団から離れ、部屋に戻ってソファに座るとドアが開く。ノックも無しに。
「よう、エセ巫女」
「はい。何か?」
「あと3日でお前の見なくて済むと思えば、清々する」
「本当に長かったですからね。お世話になりました」
「っ、お前褒美は帰還だってな? あっちでお前なんか待ってる奴などいないだろうよ」
「そうかもしれません。それでも焦がれてしまうものです。故郷と言うのは」
「……お前……」
「何か?」
「本当に帰れると思ってんのか?」
「……? ここで殺されるのですか?」
「っ違う!」
「私は、王を信じています。一国の主である王が、そう簡単に約束など違えないと。そうでなければ、この素晴らしい国を治める事など出来はしませんもの」
「めでたい奴」
「ありがとうございます」
フンッと鼻を鳴らして去る男は、何かと私に突っかかってきた奴だ。デレが無いので、勝手に針ネズミと呼んでいる。
帰り際に、股間でも蹴っていきたい。
「巫女様」
「はい?」
「本当に帰ってしまうのですか?」
出てきたのは神官長とやら。
おいおい、ここ数日で私の周りに女性は消えたのか? 何故、神官長自ら茶を持ってくる。
「はい。私は、ここに来るまで父母に大切に育てられたことがよく分かりました。帰ったら、親孝行をしたくて。きっと心配してます」
本当に。
「そう、ですか。この世界に勝手に引き込んだ上に、我々の事情を押し付けて大変申し訳ない。ですが、恥と承知で言わせて下さい」
……神ちゃん(勝手に命名)お前もかよ。
「貴女の優しさに、私は救われました。この世界も。どうか……どうか、この世界に留まってはくれませんか?」
「ぁ……わ、たしは、どうしても故郷が忘れられないのです。この一年、それは無くなる所か大きくなる一方で。張り裂けそうに辛いのです」
会いたいなぁ。おかんとおとん。帰れたら、親孝行するよ。
神ちゃんよ、ところで私は誰が救ってくれるのかな?
「っ! くっ……そうですね。お恥ずかしい所をお見せしました」
「……いえ」
「ですが、忘れないで下さい。私がいつでも貴女を思っていることを」
「ありがとうございます」
忘れないよ。誘拐の実行犯が。
神ちゃんが入れてくれたお茶に、こっそり解毒をかけて飲む。あちっ。
侍女さん入れてくれたのは、適温だったのに。
私に潤いのメイドさんを返せ~。
むさ苦しい男共などいらんわ~。
「……巫女」
「はっはい!」
「どうして帰る?」
来たよ。何かまとわりつく喋る筋肉が。
青と緑のオッドアイで白髪。お祖父ちゃんの所にいた猫のユキちゃんに似てるから、ユキちゃん。
実際はガタイが良くてのユ゛ギぢゃあぁぁんって雰囲気だけど。
「どうして? ですか?」
「俺は嫌だ」
「申し訳ありません」
「嫌だ!」
バッと膝を突き、長いワンピースの裾を掴む。
おい!?
そのまま裾はあげずに、顔を寄せキスをする。
「ここにいて。何でもする。巫女に会って生きる意味を知ったんだ」
私はここに生きる意味を全く見出だせないがな。
「貴女がいなくなったら、俺は、俺は」
裾を持ったままこちらを潤んだオッドアイで見上げるユキちゃんに、頭を下げる。
「私は……かえ、りたい」
「っ!」
「本当に、申し訳ありません」
台詞を付けるなら、ドラ○も~んという感じで泣きながら去っていくの○太の様に、ユキちゃんは出ていった。
疲れた。
「貴女は酷い方だ」
出たか、眼鏡。宰相の位置にある通称イヤミ!
出っ歯じゃないけど。
ネチネチネチネチと、嫌みばかり言ってくる。
「酷い……でしょうね」
あんたらもな。
「幾人もの男を虜にして、袖にする。悪女のようです」
「そう思うのでしたら、宰相様にとってはそうなのでしょう」
「……かく言う私もその一人」
あーもー、めんどくせぇ。
だいたい婦女子の部屋にガンガン男がノックもなく入ってくるのがおかしいって。
イヤミがこちらに手を伸ばして顔に手を伸ばす……と、バチッ! と弾けたように手を引く。
「っ! 忌々しいですね。そのセイデンキとは」
「私の世界でかけられる術です。触れると小さな雷が起きますので、気を付けてください」
実際は、私が触られないように全身にかけている。強行手段で襲いに来るアホがいたから、ほぼ最初からかけた。因みに私はノーダメージ。いや便利だわ、魔法。
「それすら無ければ、貴女という存在を再び拐い、私の屋敷の奥深くに閉じ込めるのに」
はい! 犯罪でっす!
「ご冗談を」
ヌッと、ソファの背凭れに手を置き、あと少しで触れるという所まで顔を寄せてくる。くそイヤミ!
「このまま貴女に口付けを赦されたならば、天を貫く雷にすら打たれても良いのに……」
あ、やだ。寒気が。
そうなった場合、イヤミはたらこ唇もしくはアフロだけどね。
「……帰したくない」
「……」
見つめ……睨みあう二人。
負けねぇ! 実家の柴犬と鍛えたこの睨み! とくと味わえぇ! 目が渇くぅ!
「ふっ。そう怯えなくても。貴女のまっさらで無垢な瞳を見ていると、毒気を抜かれます」
イェイ! 勝った! だけど、鳥肌が!
無垢ってどこ見てんの? 頭大丈夫?
「貴女は数多の男の心を拐い、そしていなくなるのですね。残された我々……心を失った者共が、届かぬ貴女へ焦がれ嘆くのみです」
えぇ~。何て返せばいいのやら。
語録が無いんだってば!
「その失った心は、薄皮が剥けた様なものです。また新たに更に強い皮膚で直ぐ様覆われ、皆落ちた痂皮など忘れるでしょう」
あってる? 皮膚なんてグロいか? かさぶたなんて表現おかしい?
「いいえ、癒されず永久に血を流し続ける」
もーいや。もー無理。
苦笑いでやり過ごそう。
「貴女の困る顔も可愛らしい。もっと困らせたい」
早く帰れよ~!
最後に、耳に息をかけるように話す。
「無駄だと知っていても、貴女を他の男の様に容易く愛してしまった。貴女は本当に酷い方だ」
おまっ! だったらあの嫌みの嵐はなんだ!
くたばれアホが!
「……お戯れを」
この言葉、まさか言う時があるとはね~。
触れるか触れないかギリギリまで近付き、溜め息をこぼし去っていく。
これいつまで続くのかなぁ。疲れた。
妙に疲れる3日間を過ごし、いざ王と謁見。
一応、心の拠り所だった“貴女を日本に帰します”宣言の書かれた契約書を持って豪奢な謁見室へ。
ナイスミドルな王様とイヤミ宰相、ユキちゃん、などなど見目麗しい男をゴッチャリ集めた、実に息苦しい室内となっている。
窓曇りそう。大体、集まってるの若すぎ。
口々に、帰るなとか行くなとか残れとか、うざいわ。
とりあえず王に礼を取る。
位の高いお方への対応など知らんよ。
なに言えば良いんだよ。あの憎々しい美丈夫王の顔に、小銭入れた靴下的なものを連打でぶちかましたい。
「巫女よ。此度の浄化の旅、誠に大義であった。して、褒美の件だが……」
「陛下。その前にどうか私に発言の許しを下さいませ」
王はニヤリと笑う。イラッとする。
「ああ、いいぞ」
私のスイッチを入れる。
「異質な存在である私に、とても親切にしてくださって……ぅう……。故郷で私は両親の元で、大切に大切にされ庇護される存在でした。突然何の前触れもなく引き離され、とても戸惑い悲しみ嘆きましたが、大切にされるだけではなく、両親の元を一時的に離れたこの世界での体験は、私にとってとても良い教訓となりました。この世界での体験を生かし、私は故郷に戻ったら、愛する人達へ少しでも恩返しをしたいと思えるようになりました。皆様のお陰です。ありがとうございました」
(訳:実家暮らしの社会人で楽させてもらってたけど、離れてもっと親孝行すれば良かったと思うよ。帰れたら、温泉旅行プレゼントするからね! おとん、おかん!)
「なっみ、巫女よ……」
「あぁ、陛下! 陛下が、最初にこうして書き付けまで残して私を故郷に帰すと約束してくださらなかったら、私はきっと郷愁の念でこの身が張り裂けていた事でしょう。私への迅速なご配慮、誠にありがとうございます。如何に陛下が素晴らしいか、皆様にもお教えしますわ。ほら、こうして私の心を解して下さったのです」
(訳:言い逃れ出来るか? こうして証拠もあるぞ)
左手で書き付けを出し、右手でヴォンとデカイ液晶を出す。そこには、座っている私と陛下、その他が写し出される。
『――――か、そなたは故郷への帰還を望むのだな?』
『はい、何を置いても、とても大切な私の全てが故郷にはありますから。それが出来なければ私は、私はっ!』
『うむ。無事浄化を1年終えたら、帰還の儀を約束しよう。そら、こうして契約の書状を。そなたを召喚した一国の王として、必ずや帰還を約束しよう』
『あぁぁぁ! ありがとう、ございます! その約束だけを支えに、頑張ります!』
『だがもし、この国にそなたが残りたいと思ったら、残っても良いのだぞ?』
『私は、この世界の異質です。何より、愛する人(両親だけど)が故郷にいますので』
『そ、そうか、だがもしそうなった場合は、何の気兼ねもせずに良いからな? 帰還以外の望むもの何でも与えよう』
『いいえ、帰還のみで。本当にありがとうございます。私頑張ります!』
ここで液晶を消し、王に向き直る。
「この国に住むこの世界の方々は幸せですね? このように誠実で約束を守ってくださる陛下が統治なさっておられるのだから。では陛下、私に帰還の褒美を厚かましくも、お願い致します」
「……そ、の、もう少し滞在してはどうか?」
「? ……そんな、いいえ。滞在を延ばすことは、国民の皆様が納めた税を私が無駄に使うことになります。お世話になった方々にそのような事は出来ません」
「う、うむ。しかし、そなたは……その、親しい男がいると聞く。そちらは良いのか?」
「はて? 微塵もおりませんが? 寧ろ男性はとても苦手でして、旅の間中は殆ど会話もありませんでしたし……最近は何かと別れの挨拶が多く会話が増えましたが親しい方は一人もいません」
何故か、そんな! とか、馬鹿な! みたいな声が聞こえてくるので、いや、こちらが馬鹿なだよ?
「……巫女、それでは私の心を弄んだのか?」
出てきた、イヤミ。
「いいえ? それらしき事に一度も応じた覚えもありませんし、弄ぶなど。おかしな事を仰る」
「っ!」
「陛下、宜しくお願い致します」
「だが、その」
にこにこと、王の言葉を待つ。
暫く考えるような振りをして王は言う。
「褒美は、別のものを取らそう。巫女は帰還はせぬ。この国にその骨を埋め、この国に貢献するがいい」
「……」
「巫女の居は、この城に作ってやろう。充分な褒賞金も与える。それで良かろう。これにて」
私はわざとらしく、膝から落ちorzという体勢に。
「陛下……嘘でございますよね? 私がどれ程故郷を思っているか知っておられるのに! 約束を反故なさるのですか……?」
「発言の許可は与えておらんぞ!」
話が一息つく度許可求めるのかよ?
めんどくさい。
「あ……そんな、いや、いやあぁぁぁぁ! お父さん! お母さん! お願い! 帰して! 帰してぇ!」
「巫女は混乱している。自室へ連れていけ!」
脇を抱えられ、持ち上げられる。
激しく抵抗し、叫び続ける私。
「いやぁ! 絶対心配してる! 突然ここに拐われて、目の前で消えた私を! 私を帰してぇ! 愛する人の元に! お願い! お願いします! どうか、どうかぁ!!」
「衛兵」
「ぎゃっ」
叫び続ける私の首に強い衝撃がきて、意識が遠退く。死ぬほど後悔させてやりたいわ。
どうなるかなぁ? 今後。
目を覚ますと、部屋にいた。
首痛いわ~。さて、結果はやっぱり帰してもらえなかった。泣くのは後にするか、早いとこ出ていこうっと。部屋には誰もなく、荷物を持って抜け道へ。
静かと思われる廊下に、何やら大勢の声が遠くに響く。うまくいったかな?
脱出すると、城の前に大勢の人達。
返せだの何だのかんだの叫んでいる。
私は顔を隠す薄布を外し、堂々人混みに紛れどこかの店のトイレへ。フルメイクを拭い、服を簡素なものに変え、また堂々と歩いていく。
王都を守る門の外にも人が溢れ、通常通りに働けていないようだ。
隙をついて、王都を出る。
「……だあ! やったぁ!」
私は跳び跳ねて雄叫びあげた。
ここに落とされた初め、私はマスクをしていた。乾燥予防に。そこから、平安時代のように別に高貴な姫でも何でもないが、おいそれと顔を見せてはいけない風習だからと、常に布を被った。布の下はフルメイク。
そして、説明されてからは猫を被り続け、皆様の為に~と嘯きながらチートな無尽蔵の魔力と創造する力を使い、せっせと電化製品を作った。
電気を魔力に変えて。
丁度冬だったので、電気ストーブにあんか、電気毛布、炬燵、魔力ない人もボタン1つで湯が沸くデカイ桶(風呂)、それから携帯、洗濯機、冷蔵庫、オーブン、電子レンジ、夏にはエアコン、扇風機等々。そりゃもう大量に無償で配った。お陰で、辺境の村にも全てではないが、一家に1~2台は何かしらの製品が置かれるようになり、浸透させていった。
皆、生活は楽になり依存していく。
やはり貴族と言ったところか、スラムなど貧困層に充分行き渡るように製造したが、この国はそこには配らなかったみたい。関係ないけど。
製品一つ一つに、必ず書き込まれている言葉がある。『巫女がいなくなっても半永久的に動きます』と。
それを今回全て止めた。
これから冬だ。私の製品に頼り、殆どの家庭は薪など冬の準備を充分にしてはいないだろう。
「……思い知れ」
私は悪魔のように笑った。
(巫女退出後少し後)
「陛下! た、大変です! 民が城の前に集まってます!」
「何ィ!」
「どうやら、ケイタイで先程の謁見が映っていたようで、巫女が連れ出された後から巫女製品が突然動かなくなったと……」
「なんだと……!?」
「巫女に事情を! ええい、叩き起こして連れて来い!」
「陛下! それが、未だこのやり取りは見られています。先程の意識を奪った時も、今のこの会話も」
「それを先に言え!」
「陛下ぁ! 巫女が消えました!」
「何だとっ!!」
全て憎んだ。この世界の人間全て。
3年もしつこくずーっと、この機会を伺っていた。私をこんな場所に引きずり込んだ奴等を死んでも赦さない。私は全てを失った。誰も信用せずただひたすら製品を供給し続け、この日を待った。
日本に帰してもらえなかったら、製品を止める。
帰ったら――帰っても、止まる。
何とか、私を犠牲に笑ってる奴等をどうしても不幸にしたかった。
何故? 何故? 私? 何故? お前らの為に私が? お前らは? 私に何をした?
だから、この計画をずっと考えてた。ブレずに、多分本当に純粋な優しさを向けてくる人にも目を向けず。私を落とした奴等を貶めたい。それだけを糧に。
良いじゃないか、金も地位も、何を失っても家族が友人がいる。私にはいない。良いじゃないか、例え死んでも故郷に埋まる。私はもう立つことすら出来ない。良いじゃないか。
いっそ皆、死ねばいい。
「みぃんな、きえちゃえ……」
旅の途中で偶然見つけた故郷の観光地にそっくりな滝。そこの崖でずっと座って眺めてる。
ここに落ちて初めて涙を流す。ただただ泣く。
異世界召喚は、故郷のとある精神科医の死の受容過程に似ていると思う。他の人……がいるのかどうか分からないけど、小説のモデルは最終的に受け入れてその世界で葛藤しつつも生きることを選んでいる。
異世界に来たことを否認して、ふざけるなと怒り、何をしたら帰れるか取引を持ちかけ、帰れない真実を知ったら落ち込み抑うつ状態になり、この段階を繰り返し繰り返し心は疲弊し、最後受け入れる。
言わば異世界召喚は、死だと思う。
怒りでずっと止まっている私は、どうなんだろう。前にも後ろにも進まない。復讐だけを選んだ。
今回の事が、国にどう影響するのか分からない。ただの読書好きのOLが立てた穴だらけ計画などには、あの国のトップは全く揺るがないかもしれないし、大多数の民は死ぬかもしれない。
「全てどうでもいい……」
ここで死のう。
怒りで止まったままの私は、異世界召喚を受容出来ず死を選ぶ。何とも滑稽だな。手に入れた毒薬をポケットから取り出し、水を一口飲んで、毒薬の包紙を開き口に入れようと上を向く。
「巫女っ!」
口に入れる寸前で手が叩かれる。
私は急いで立ち上がりながら後ずさり、その腕に囚われる前に離れてそちらを振り向く。
「あらやだ。もう見つかっちゃった?」
視界に入る複数の人。覚えのない顔が一人。
呆けて忘れてたけど、そりゃ監視されてるわな。
崖、犯人、捕まえに来た人。
二時間ドラマのサスペンスかよと、頭のどこかで思った。
犯人役は大抵ここで……。
ざまぁ?からの?
逆はーか、逆に騙し騙され殺され?
飛んで魔王か
復讐一貫!
お家に帰る
迎えが来る