地獄耳プラス
知識を得て気づいたことがある。私の情報収集能力はかなり使える。プロフィールを見て、てっきり新聞部が要だと勘違いしていたのだが重要なのは私の耳だった。
これが恐ろしいほどの地獄耳。意識を集中させるとはるか遠くの小さな音だって拾えるのだ。
「なによ。全然キャラが違うし情報も一つもくれない。サポートキャラなんだからちゃんと仕事しなさいよ。私がヒロイン!私がこの世界の主人公なんだから!」
後ろの方からぶつぶつと聞こえてくる声は聞かなかったことにしよう。私はこの能力を有効活用してゲームとは関係ない私の、私だけの人生を生きるんだ!
そして時間は現在に戻る。
「芽生ちゃん!転校なんてどういうこと!?」
早速来たか。私が望むのは後腐れのないフェードアウト。今からのやりとりには細心の注意を払わないと。
「先程言った通り病気の療養のために田舎の学校に行かないといけなくなって」
「嘘だ!病気なんてなるはずないじゃない!」
嘘じゃないよ診断書もあるよ。心優しい不倫医師が作ってくれた偽造だけどね。持つべきものは地獄耳ってね。
「嘘?ひどい!なんでそんなこと言うの!」
「だってサポートキャラが病気で退場なんてあるはずない!」
普通なら何も言えないはずの病気を理由にした転校もゲームに引きずられた春野さんには効かないか。仕方ない。総員!目薬用意!!
「そんなの・・・私だって嘘であってほしいよ!」
「え?」
涙は女の最終兵器!
「春野さんは私に元気になってほしくないの?どうして笑顔で送りだしてくれないの?」
「そ、それは・・・」
ばつの悪そうな顔をして周囲を見渡す春野さん。ようやく気がついた?そう、周りの視線が私の味方だ。
「私たち友達でしょ!」
「うっ。元気でね・・・。芽生ちゃん。」
やった!勝った!!これで私の転校は誰にも邪魔されない!
「う、うう・・・」
え、春野さん!?どうして春野さんが泣いてるの!
「サポートキャラがいないんじゃ、私なんかが恋愛なんて出来る訳ないじゃない・・・」
普通なら聞こえない程小さな呟き。それを私の地獄耳ははっきりと拾ってしまった。ダメだダメだ。今ここで変なことを言ってしまったら今までの全てが無駄になる。
「うう・・・うっ」
「本当に恋愛をしたいならサポートキャラなんて邪魔なだけ。もがき苦しんで自分で掴まえなさい。大丈夫。あなたならきっと出来るわ」
「えっ?」
「じゃ、じゃあ!アディオス!」
大慌てで教室を飛び出す。自分も恋愛なんてしたことないくせに何を偉そうなことを!完全にいらないことを言ってしまった!私らしくない!
教室から聞こえてきた“ありがとう”の声を背に私はとうとうフェードアウトを成功させた。