驚きの反応
「部活に入った?あの神崎が!?」
昼休み。俺は弁当を食べながら高崎に部活に入ったことを伝えると、案の定驚いた。
「ちょ、汚ねえ!口に食べ物含みながら喋んな」
「いやそれが驚かずにいられるか!だってお前今まで部活はバイトに支障をきたすから・・っつって入らなかったんじゃん。お前運動部から結構勧誘きてただろ?」
そう言えばそんなこともあったな。全部断ったんだけど。理子まで一緒に陸上部に入ろうよ~とか言い出したときは本気で悩んだこともあったが、余裕がないと言って断った。
「まあな。でもまあ、最近は大分バイトもスムーズにこなせるようになったし、落ち着いてきたからそろそろいいかなと思ったんだよ」
「で、何の部活に入ったんだ?サッカーか?それともバスケ?お前なにやらせても強いんだもんな。あ、それとも俺や妹ちゃんと同じ陸上部とか?」
「893部だ」
「は?」
高崎は俺が何を言っているのかわからないようだった。
「はぁ・・893部?そんな部活あったかな」
「東雲が昨日作った」
「へえ・・東雲さんが・・ってええ!?あの転校生が?」
俺はこくりと頷く。
「それはどんな部活なんだ?」
「さぁ・・有り体に言うと相談に乗る・・みたいな?」
「お前そんなよくわからない部活に入ったのか。必死に勧誘していた先輩たちが聞いたら泣くぞ?」
それは本当に申し訳ないと思っているが、断ったら俺の過去のことばらすって言われたしな~・・。一応この学校では俺は一度も問題などを起こしたことはなく、真面目な生徒で通っている・・・と信じているが、ばらされると本当に面倒なことになるのがみえみえだ。
高崎を見ると、今度はかなり訝しげな様子でこちらを見ていた。
「しかし、昨日から思っていたが神崎とあの転校生は何か関係があるのか?」
「まあ過去にちょっとな」
「また過去か・・。過去に何をやったらあんな可愛い子と知り合いになれるんだ?」
知り合いではなく、一応敵だけどな。
「色々あったんだよ」
「あったんだよ・・じゃねえよ!神崎って全く過去のこと言わないけど、何かあったのか?」
「普通自分の過去なんて自らすすんで言う奴なんていないだろ」
抜けているようで案外するどいな高崎は・・・。何かあったどころか不良の頭でした、なんて言ったらこいつはどんな反応するんだろうか。
「畜生~俺も帰宅部だったら893部?に入ってあの転校生とお近づきになりたかったのに~。まあでも、陸上部のあのユニフォームのむちむちとした姿を見られるだけで俺は幸せなんだが!」
何かの妄想をしているのか鼻の下を伸ばしてデレデレしている高崎にドン引きしつつ、しばらく談笑してあと、俺はトイレに行くために教室を出る。高崎もついてきた。
「ちょっとお茶飲みすぎたな・・」
用を足そうとトイレに入ると、見知った男子がいた。そいつは俺に気付くと露骨に舌打ちをする。
「昼から最悪な奴を見てしまった・・不運日だな」
「だってよ高崎。お前嫌われてんぞ」
そう言って高崎の肩を慰めるようにしてぽんぽん叩く。
「え?」
「高崎じゃない!!貴様だ」
そうして俺を指差してきたのは隣のクラスにいる宮内だ。入学当初から何かと俺に突っかかってくるのだが、理由はわからない。最近知った情報によると、有栖川先輩のことが好きらしい。
「そうか。別に俺は宮内のこと嫌いじゃないんだけどな」
「貴様がそうでなくとも僕は嫌いだ」
吐き捨てるようにそう言ってトイレから出ていく宮内。
「神崎。ちょっと追いかけてみようぜ」
なぜかにやにやしている高崎にそう言われて宮内についていく。
「な、なんで付いてくるんだ!あっち行け!」
「え~?俺達別に付いていってるわけじゃないぜ?なぁ神崎」
「ああ。教室がこっちにあるからな」
「・・・ちっ!」
舌打ちすると、歩くスピードをはやめる宮内。それに合わせて俺たちもスピードを上げる。
「やっぱり付いてきているじゃないか!」
「教室に急ぎの用があったんだよ」
「そんな言い訳が通用すると思って__」
宮内が後ろを振り向きながら歩いていたせいか、不意に誰かとぶつかった。
「きゃっ!!」
「おわっ!!」
そのまま二人共尻餅をつく。何か鈍い音したけど大丈夫か?
「くっ・・誰だ!ちゃんと前へみて歩け__」
「ごめんなさい・・。大丈夫かしら?」
「あ、有栖川先輩・・」
どうやらぶつかったのは有栖川先輩とだったらしい。俺たちも駆け寄る。
「先輩、大丈夫ですか」
「ええ、私は全然平気よ。あなたも怪我はなかった?」
「は、はい!僕は全然平気です!」
「それは良かったわ」
さっきとは打って変わってキャラが変わった宮内。高崎がそういうことね、としみじみと頷いていた。
「先輩、下級生の階に来てどうしたんですか」
「ちょっと生徒会の方で用事を頼まれちゃって・・それで来たの。あ、そうだ!神崎くん。東雲さんがさっき神崎くんのこと探していたわ」
「そうですか、わかりました。わざわざありがとうございます」
そう言うと先輩は一礼して去っていく。宮内を見ると、ぼーっと有栖川先輩を見ていた。
「ああ、有栖川先輩に手を触られた・・今日はもう絶対手を洗わないぞ」
「それは汚いからやめたほうがいい」
「っ!?神崎!貴様まだいたのか!」
「俺もいるよん」
高崎がにやにやしながら宮内の肩を叩いた。
「わかる、わかるよその気持ち。美少女に手を握られたら普通そうなるよな。いや~しかし、宮内は先輩派だったのか~。かなり険しい道だぞ?」
「僕をお前たちと一緒にするな!」
宮内はズボンの裾についていたホコリをはらうと、去ろうとする。
「あ、宮内ちょっとま__」
「うるさい!僕に話しかけるな!」
俺が制止する声を無視してそのまま行ってしまった。
「あいつ、ズボンのチャック全開だったのに」
これは心の中にしまっておくとしよう。
その後、俺達は教室へと戻る。自分の席へと戻るとなぜか東雲が座っていた。
「神崎 裕人。どこに行っていた」
「手洗いだよ」
「む、そうか・・。とりあえず今日から活動を開始することだけ言っておきたく」
「それはもう昨日聞いただろ?」
「念押ししないとお前は来なさそうだったから言ったのだ」
「心配せずともちゃんと行くって」
ならいいと言って自分の席へと戻ってしまった。
高崎が探るような視線でこちらを見てくる。
「結局東雲ちゃんは何で神崎の席に座っていたんだ?」
「さあな」
そう言ったが、俺は東雲が立ち上がる際に机の中に何かを入れたのを見逃さなかった。
俺は何を入れたのか確認するために机の中に手をいれるが、何もない。
ふむ・・・。確かに何かを入れたと思ったのだが・・。まあいいか。
そうして俺たちの昼休みは過ぎていった__。
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