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咲良の決意


「え、お兄ちゃん部活入ったの!?」

 

 バイトも終わって家に帰ったあと、俺は部活に入ったことを伝えると、二人共驚いていた。


「何の部活?なんの部活?」


 興味深そうに聞いてくる理子を受け止めながら、俺はなんて言ったらいいものか悩んでいた。



「うーん・・正直俺もよくわからない」

「え、わからない?」


 理子は頭の上にはてなを浮かべた。咲良も同様で、首を傾げていた。


「兄さん、何をするのかわからないのに部活に入ったの?」

「ん、いや、まあな・・」


 脅されて入ったとはとてもじゃないが言えない。そんなことを言ってしまった場合、恐らく二人共原因を突


き止めようとするだろう・・。危ない橋を渡らせるわけには行かない。二人には安心して生活を送ってもらいたいのだから。例え俺が傷つくことになったとしても、この二人だけは守らないと。

 しかし、俺の微妙な反応に異変を感じたのか、咲良が問い詰めてくる。


「兄さん、その部活の名前はなんていうの?」


 893部・・・なんて言ったらどうなるんだろう。馬鹿にしているの?と言われてしまうかもしれない。

・・・だが、有栖川先輩もちゃんと認めてくれたし、俺はちゃんということにした。


「・・・893部だよ」

「893部?」


 またもや二人の頭の上にはてなが3つほど浮かんだようだった。理子に至っては目をつむってうんうん唸っている。理解に苦しんでいるようだ。そりゃそうだろうな。893部なんて全国のどこ探しても見つからないだろう。

 だが、咲良は893という数字の意味がわかったようだった。


「893ってなんの数字かと思ったけれど・・ヤクザって読むんじゃない!兄さん、そんな得体の知れない部活に入ったの!?」


 咲良の問に俺は頷く。咲良ははぁ・・と深いため息をつくと、とんでもないことを言い出した。


「わかったわ。じゃあその部活、私も入るから」

「ああそう。咲良も入るっ___ってええ!本気で言っているのか?」


 俺がそう聞き返すが、咲良はええ、と首を縦に振っただけだった。


「ええ~~お姉ちゃんいいな~・・・私も入りたかったよ」

「あんたは陸上部があるでしょうが・・」


 むーっと頬を膨らませる理子。どうやらこの、まだ何をやるかわからない部活に入りたがっているようだったが、入らないに越したことはない。むしろ入らないで正解だと思うぞ。


「咲良、無理して入る必要はないんだぞ」


 俺がそう言うと、咲良が少し睨んできた。


「兄さん、私が入るのは嫌なの?それとも、何かやましいことがあるのかしら?」


 詰め寄ってくる咲良に、俺は滅相もございませんと言うと咲良は俺から離れた。

 

「それで兄さん、活動日はいつなの?」

「明日だな」


 わかったわ、と言うと咲良はそのまま部屋へと戻ってしまった。リビングに残された理子と俺。

俺はソファに倒れこむようにして座ると、深いため息をついた。

 なし崩し的に咲良も入ってしまった。東雲がちょっかいださないといいが・・。

 まあその時は俺が咲良を守ればいい。そう思っていると、理子が目の前にやってきた。


「ん?」

「えへへ。理子アターーック!」

「お、おお?」


 そんな掛け声とともに、理子が俺に抱きついてきた。


「どうしたんだ急に?」


 とりあえず理子をそっと抱きしめると、その髪を撫でてやる。すると理子はくすぐったそうに身をよじらせた。


「今日はお兄ちゃん成分が足りないの。だから補充してるの」

「なんだその成分は・・・」


 恐らく今適当に作ったのだろうが、要は甘えたいらしい。まあ毎夜のことだから全然構わないのだけれど。

 その時不意に、東雲にシスコンと言われたことを思い出した。


「シスコンね・・・」

「ん?なぁに?」


 しまった。声に出ていたみたいだ。幸い聞かれていなかったようだが。

 しかし、俺はもしかしてシスコンなんだろうか・・。母さんと父さんが死んでから、俺は二人のことだけを思


って生きてきたが、もしかしてそれがシスコンっていうことか?

 考えても謎が深まるだけだ。この話はやめよう。

 しばらく理子とじゃれたあと、俺はお風呂に入る。理子が一緒に入る?とニヤニヤしながら言ってきたがそれは無視した。

 風呂から上がったあとは部屋で明日の準備をし始める。


「よし、これでいいだろう」

 

 準備を済ませたあと、俺は少し早いが寝ることにした。電気を消して布団にダイブする。

 ああ・・この布団に潜るこの瞬間が一番幸せだ。

 そんなことを思いながら俺は深い眠りへとはいったのだった__。

 

    



 ◆◇◆◇





 裕人が以前まで住んでいたマンションの近くの空き地にて、2人の男と1人の女が集まっていた。

 本来なら、こんな夜中に人が集まることなどない。なぜなら、ここは元々不良たちの溜まり場だったからだ。しかし三人の男女は全然臆することなく居座っていた。


 「本当にあの人はどこに行ってしまったんだ・・・」


 裕人の舎弟である荒木 正斗。彼は未だに頭である裕人のことを探していた。


「ったく俺たちに何も言わずに行きやがってよ。なんつー頭だよ・・」


 そう言ったのは同じく裕人の舎弟である播磨 玄三。彼はかつて裕人に喧嘩を売って瞬殺されてから会心、裕人の舎弟になった。性格は粗暴だが裕人の言うことは聞く。彼もまた、裕人のことを探していた。


「・・・・裕人・・・どこ行ったの・・?早く会いたいよ・・・」


 理奈は、裕人がいなくなってから情緒不安定になっていた。早く裕人を見つけないと、とんでもない行動をしでかすかもしれない。


「よし、玄さん。報告を」


 しかし、玄三は首を横に振っただけだった。


「こっちには何も手がかりなし。そっちは?」

「こっちもだ・・・。理奈っちは?」


 正斗がそう言うと理奈がみぞおちをくらわせた。


「ぐぼァ!!ちょ、ちょっと!?いきなり何してくれちゃってんの?!」

「・・気安く下の名前で呼ばないで」


 理奈がキッと正斗を睨みつける。正斗は少し涙目になりながら、理奈に頭を下げた。 


「わ、悪かったよ・・。それで皆本っちは?」


 痛そうにお腹を抑える正斗を全く気にすることなく理奈はこういった。


「・・・こっちにも何も手がかりはなし」


 3人で溜息をつく。


「兄貴が失踪してしまってからもう2年だ・・。いなくなって初めて知ったけど俺達兄貴の舎弟だなんだのって言っておいて兄貴の家すら知らないなんて・・」

「それを言うな。俺だって後悔してんだから」

「うぅ・・・裕人・・・」

「あーあ。だめだこりゃ。兄貴がいなくなってから理__、皆本っちは放っとくとずっとああだし」

「まぁ、頭にかなり目をかけてもらっていたらしいしな。そりゃ惚れるのも当然だろう。つかあいつあとから入ってきたのになんで俺たちより目をかけてもらってんだ?」 


 玄三の問いに正斗は首をかしげた。

「まあそんなことよりも、だ。この辺は既に探したし少し遠くまで探し回ったが見つからない・・・。ということはだ。もしかしたら兄貴は・・・」

「死んだってか?それはありえないだろう。俺を一瞬で潰した頭がそう簡単に死ぬとは思えない。普通に考えて、もうこの辺はとんずらしてほかの地域にいるんじゃねえか?」

「私もそう思う」

「だとしたらもはや探すのは不可能なん・・ぐぁ!!」


 またも理奈が正斗の頭をはたく。


「・・不可能とか言うな。私は絶対裕人を見つけるんだから」 

「あ、ああそうだな。早いとこ兄貴を見つけないとな!」



 その後、3人の会議はしばらく続いたのだった。







 ◆◇◆◇


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