893部
「なあ、どうしてお前東雲に連れ去られていたんだ?知り合いなのか?」
教室に戻ったとたん、高崎から聞かれる。俺は弁当を広げながら、首を縦に振った。
「まあ知り合いというか・・・・敵?」
「敵?なんだそりゃ」
よく意味が分からない様子の高崎だったが、深追いはしてこなかった。
「まあでも、彼女を怒らせないほうがいいぞ。めっちゃ強いから」
「へぇ、そうなのか。まあ、確かに雰囲気からして武術でも習っていた感じはしたけど」
「高崎でもそんなのわかるのか」
「ま、まあな。一応俺も習っていたし・・」
そうなのか。意外だった。高崎は勉強こそできるが運動神経はいまいちなので、そういうのとは無縁だと思っていたのだ。
「しかしお前あんな可愛いこと知り合いとか・・・どうしてお前のとこばっかりそんなに可愛い子いるんだよ。
バイト先の子も可愛かったし・・。神崎にはなにか可愛い子専用の磁石か何か付いているのか!?」
「知るか。そんなの意識したこともなかったわ。むしろ俺は男が少なくて少し肩身狭いぐらいなんだぞ」
バイト先だと店長とあともう一人男の人がいるぐらいで後は全員女性だ。肩身狭いったらありゃしない。
「何ですかその贅沢な悩みは。少しくらい俺に分けても__」
「神崎裕人!」
突然、名前を言われて俺はその声に振り向く。そこには、申請書を取りに行ったはずの東雲が立っていた。
「ちょっと来てくれ!」
「そんな大声で言わなくとも行くって」
弁当まだ残ってたのに・・。
俺は渋々ながら彼女についていく。
「あのさ、俺飯食べたいんだけど。何のようなんだ」
「ああ。実はさっき生徒会室にまで行って部活申請書が欲しいと言ったのだが・・・」
・・・
・・・。
「はぁ・・・。つまり申請書を貰うには最低二人以上で行かないとダメ・・・と」
変な校則だな。俺は不信感が募ったが、気にしないことにした。
「そうだ。だから来てもらいたかったのだ」
「はいはい。じゃあさっさと済ませてくれ。俺は腹が減っているんだ」
わかったわかったと言って東雲は少し小走りになる。俺もそれについていき、生徒会室前についた。
「失礼します。先程の者ですがー」
東雲が生徒会室に入ってそう言うと、生徒会長の有栖川先輩がこちらを向いた。
「はい。どうしましたか?」
「いえ、申請書を貰うには二人以上で取りに来ないといけないと仰られていたので。連れてきました」
「そうですか。ちょっとお待ちくださいね」
有栖川先輩は戸棚から一枚のファイルを取り出すと、その中から一枚の紙を取り出した。
「はいどうぞ。申請書は生徒会室で書いてもらえると嬉しいです」
「ん、そうなのか_じゃなかったそうなんですか。おい、神崎。お前もこっちに来い」
「ああ」
東雲にそう言われて俺も生徒会室に入る。他の生徒会役員はどこかに行っているのか、先輩一人だけだった。
「こんにちは。有栖川先輩」
「まあ。神崎くん、もしかして部活を始めるの?」
「え、ええ・・まあはい」
有栖川先輩は俺のバイト先の先輩でもある。この人には俺がまだバイト生として間もない頃本当によくしてもらっていた。その当時はまだ口調も荒くてよく先輩に叱られたものだが、そのお陰で今では普通に話せるようになった。先輩には本当に感謝しなければならない。
「それはいいことだわ。どんな部活なの?」
先輩が興味深そうに聞いてくる。俺も893部がどういった部活かよくわかっていないので、東雲に視線で促した。
「それは私から説明します。単刀直入に言うと、ここらの不良や不審者共に襲われた人たちから相談を受けて
、その不良をぼこりに__じゃなかった更生してもらうようにする部活です」
はぁ・・!?何その東雲しか喜ばなさそうな部活!どうせロクでもない部活だと思っていたが、本当にその通りだったとは・・・。
先輩も驚いた様子・・・というか半ば困った様子だった。いや、普通ならそう思うだろう。
「最近この辺の治安は実は悪くなっていることは知っていますか?」
「は、はい。そう言う情報は一応こちらにも入っています。この辺でよくカツアゲや恐喝をされる人達が増えていると」
「はい。そういう人たちが増えると、私達の学校の生徒どころか、一般人ですら怖くて特に夜などは歩けないでしょう。なので、そういう人たちを私達が粛清しに行くんです」
粛清って・・。もはや隠す気もないなこの子。
まあとにかく、そんな部活、通るわけないだろう。そう思っていたのだが・・先輩は悩んでいる様子だった。
え?普通こんな部活却下じゃないの?
あ~でも先輩は優しいからどうやって断るか考えているとかそういうオチか。成程。
「でも、それだと貴方たちも危ないわ」
その言葉に東雲が胸を張って答える。
「大丈夫です。私は以前の学校では赤い死神として恐れられていました。事実、私には優秀な舎弟・・じゃなかった部下達がたくさんいます。ここでもその通り名を知っている人は恐らくいるはず。
私がここに来ていことを知らしめることで、不良たちを抑えることができます」
「まあ。あなたが赤い死神だったの。もっと屈強なのをイメージしていたけれど・・、とても可愛らしい死神さんね」
「え?先輩知っていたんですか?」
「ええ、名前ぐらいは。以前学校内で不正をした不良を指導した際にそんな話をしていましたの」
「おお・・私の名前がこんなとこにまで知れ渡っていたとは」
東雲の知名度は結構高いようだった。
「確かに、私達生徒会や風紀委員会でもそのようなことは問題に上がりました。それを貴方たちが正してくれるというのなら、こっちとしても嬉しいです。・・・ただ、ひとつ条件があります」
「はい、なんでしょう」
先輩は一度こほんと咳をしたあと、続ける。
「さすがに相談を受けて悪い人たちを粛清する部活、では私が許可したとしても、教育委員会から否定されてしまいます・・。ですので、そういう相談だけではなく、他の相談も受け付けるようにしたらどうでしょうか」
「それはつまり、粛清する以外の相談も私たちがするということですか?」
東雲の問いに、先輩がこくりと頷く。
東雲はしばらく考えていたようだったが、決心したようだった。
「わかりました。それでいきます」
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結局、部活名は変わらず893だが、その内容は、『困ったことがあればなんでもご相談を。小さいことから荒事まで何でも受け付けます』というものだった。
東雲は先輩に申請書を提出すると、生徒会室を後にした___。