四面楚歌
俺が連中たちの前へ姿を現すと歓声が上がった。
「おお、本当にいやがったぜ!神崎ぃ・・・今までよくも俺たちをさんざんこけにしてくれたよなぁ」
「お前さえいなけりゃ今頃俺たちはやりたい放題だったんだ。それを一瞬で潰してくれちゃってさァ・・」
「ま、だけどそれも今日までだ。見たところ、片腕は使い物にならねえようだし、余裕だな」
男達が嘲笑する。俺は相手の挑発に乗らないように、慎重に言葉を選んでいく。
「お前たちみたいな雑魚達といえど、束になってかかられたら流石に厳しいな」
言葉を間違えたのか、男達が激昂した。
「誰が雑魚だ!!ちっ・・・調子に乗りやがって!おい、天王寺さん。もうやっちまっていいのか?」
男が携帯で天王寺と何かを話したあと、電話を切る。
「おい、お前ら許可が出たぞ!!神崎を倒して恨みを晴らすんだ!!やっちまえ!!!」
リーダーらしき男の声を皮切りに、男達が一斉にこちらへ向かってくる。
さてどうするか・・・。片腕は使えない。一人一人なら片腕が使えなくとも問題ないが、あれだけの人数でこられたら俺もどうしようもないだろう・・。
とりあえず、学園の皆に迷惑がかからないように外へと誘導していくか・・・。
そう俺は決意すると、まっすぐ正門へ向かって走る。
「おいコラァ!!!何逃げてんだ!!追うぞ!」
予想通りついてきてくれた連中をひとまず人気のいない所まで誘導していく。連中はすごい形相で追いかけてきて少し面白かった。とりあえず、少数ではあるがバイクに乗っている奴が鬱陶しかったのでバイクが通れない道を進んでいく。案の定大回りしていかないといけなくなり、大幅に時間を稼ぐことができた。
こういう時、走りが早くて本当に助かったと思う。腕に負担をかけないように走っているので少しスピードは落ちるものの、それでも連中程度には負けない。
しかし、流石にずっと走りっぱなしだと疲れたので、俺は河川敷まで走り、そこで立ち止まる。その後方から息を切らした連中たちが続いた。
「はぁ・・はあ・・・、ちょこまかと逃げや・・がって。だが・・・もう行き場はないぞ」
間もなく、全員に囲まれる俺。とりあえず、全員がこっちにやってきてくれて良かった。これで学園のみんなには迷惑がかからないだろう・・。
しかし、ここからどうするか。結局俺がピンチなことには変わりない。例えここで連中を撒いたところで、再び学園にやってくるのは目に見えてくる。
不良をやめた俺の最大のつけが回ってきたことに舌打ちをする。
「ふう・・・。よし、お前ら、突撃だ」
再び連中が俺に向かって突進してくる。
ふぅ・・・・。俺はゆっくりと息を落ち着けて、四方八方からやってくる敵を感じ取る。
よし、あいつだな。
俺は、敵の一人に一瞬で近づくと、木刀を奪い腹部に蹴りを入れる。その勢いで吹き飛ばすと後方につかえていた人を巻き込み、一緒に川に叩き落とす。それを見て怖気付くものもいたが、敵の一人が一喝する。
「怯むな!!敵はひとりだ!」
蟻のようにやってくる敵の大群を俺はギリギリのところで交わしながら、次々と倒していくが徐々に疲れが蓄積してきて次第に攻撃を受けるようになる。
「ぐっ・・・」
まだ半分も倒していないところで片腕がジンジンと痛み始めた。くそ・・やっぱ無理しすぎたか。俺が腕を抑えると、連中はそれを見ていた。
「そうか・・!そうだよ!!おい、皆!神崎の怪我している腕を狙うんだ!!!そこが弱点だ!!」
クソ・・。これはやばいな。もうすでに体中が傷だらけだっていうのに腕を狙われたらひとたまりもないぞ・・。間もなく俺は集中攻撃を受け、次第に押されてくる。
「い、いけるぞこれは!!あの神崎を倒せるぞ!!」
川に叩き落とした奴まで加わり、俺は窮地に陥る。まさに四面楚歌な状態だった。
「(このまま終わるのか・・・)」
俺はもはや負けを悟っていた。もうあまり力も残っていない。雑魚と思って油断しすぎたのもあるが何よりも数の暴力には勝てないようだ・・・。
「お?何、諦めたの?よし、ちょうどいい。おい、終わりにするぞ!!」
そうして敵の一人が木刀をふり下ろそうとしたのを_____誰かが止めた。
「おい、神崎裕人。なにこんな相手に手間取っているんだ」
そこにいたのは東雲だった。東雲は敵の木刀を粉々に砕くと、片手で投げ飛ばす。
「東雲・・なんでここに」
「ふん、最初に言っただろう。私は喧嘩が大好きだと。だから割り込ませてもらった。それに、神崎裕人を倒すのは私だ。それをこんな雑魚に負けてもらったら困る」
「は、誰が雑魚って__」
そのまま続きを喋らせることもせず東雲が敵の溝を殴る。男は泡を吹いてその場で気絶した。
「しかしまあ、片腕が使えなくてここまでやったのか。流石だな。それでこそ私に勝った男だ。だが少し休んでおけ。腕が痛いのだろう?ここは私がなんとかしてやる。おい、宮内」
「はい」
「み、宮内!?」
木の陰から現れたのは宮内だった。まさか、東雲の部下だったとは・・。
「ふん、無様な姿だな神崎。だが貴様にしてはよく頑張った・・・特に、ここまで連中を引き寄せてくるとは思わなかった。ここは俺と渚さんに任せて貴様はのんきに見物でもしていればいい」
「ああ、悪い・・そうさせてもらう」
正直かなり限界が来ていたので本当に助かった。東雲と宮内は襲いかかってくる敵を次々と倒していく。それでも数の暴力には厳しいようで次第に押され始める。だが、東雲は一向に楽しげな表情をしていた。
「ははは!!こんなに疲れる喧嘩は久しぶりかもしれないぞ!!」
「渚さん、落ち着いてください。敵がドン引きしています」
「くそぉ・・・なんだよあいつらいきなり割り込んできやがって・・・あともう少しで神崎が倒せると思ったのに・・
」
「なぁ、でもあいつって赤い死神に似てないか?笑い方もそっくりだし」
「いや、まさか・・・。仮にそうだとしてもあいつは神崎とは敵のはずだぞ」
まあ実はそうだったりするんだが。
まだまだ攻めてくる連中をほとんど東雲と宮内で倒していき、河川敷には気絶している者でいっぱいだった。だがそれでも残り半分といったところだ。
「ふぅ・・・流石に厳しいな。私もそろそろ腕が上がらなくなってきたぞ」
二人共辛そうだったがそれでも東雲は楽しげな表情を崩さなかった。本当に戦闘狂なんだな・・。
「頑張ったようだがこっちにはまだ半分の軍勢がいるんだ。このまま潰させてもらおうか」
すると突然東雲が笑い始めた。
「ハハハハ!!!それは傑作だな。雑魚風情が私を倒すだと?面白いじゃないか。やれるものならやってみるがいい」
「ちっ・・・このアマ!」
挑発にまんまと乗った敵が東雲に突っ込んでいくが、一瞬で蹴散らされる。
「ふぅ・・・。疲れた・・私はちょっと休憩するぞ」
「何言ってるんですか渚さん。すぐそばに敵がいるんですよ」
しかし東雲はにやりと笑い、明後日の方向を指差す。そこには、東雲の舎弟と思わしき十数人の精鋭がいた。
「向こうが数で攻めてくるなら私たちもそれに訴えるまでだ。おい!!私はもう疲れて戦いたくないからあとは頼んだぞ」
「はっ」
精鋭たちは返事をすると俺達を守るようにして囲んだ。そこへ、東雲が耳打ちをしてくる。
「天王寺は恐らくまだ学園にいるだろう・・・早く行って来い。ここは私たちでなんとかしてやる」
「あ、ああ。すまない、恩にきる」
「ふ、まさかお前からそのようなことを言われるとはな・・」
珍しく照れているようだった。俺はそのまま敵の隙をついて逃げ出す。
「あ、おい神崎が逃げたぞ!!追え!!」
そうして男達が俺を追おうとするのを東雲たちが立ちふさがる。
「悪いが神崎は忙しいんだ。ここを通すわけには行かない」
「ちっ、お前ら突っ切れ!!」
東雲・・・頼んだぞ。そしてどうか怪我だけはしないように。
俺は祈りを込めながら、学園へと向かった・・・。




