急展開
昼休みになり、高崎とともに空気の悪い教室から逃げるようにして食堂へと向かうと、木島と先輩を見つけた。しかし、どうも様子がおかしい。
「だから、神崎はそんなことしてないって言ってるでしょ!?頭おかしいんじゃないの?」
「その証拠はどこにあるんだよ。それはお前が勝手にそう思っているだけだろ」
どうやら、男子生徒と何かいいあいをしているようだった。木島の怒鳴り声が聞こえてくる。そこへ、先輩が割り込む。
「はい、喧嘩はそこまでにしなさい。これ以上騒ぐのなら生徒会長として貴方たちを罰しないといけません」
「で、でもゆみ先輩!こいつが・・」
「沙羅・・落ち着きなさい。ここで騒いでいたところで、不快に思われるだけだわ。今は耐えるのよ」
男子生徒は、先輩が割り込んでくると舌打ちをして去っていく。
「はぁ・・・なんでこんなことになってるのよ・・。神崎がそんなことするはずないじゃない!私を、助けてくれた神崎が・・」
「お、おお。すごいことになってんな神崎。しかしあの木島が男を信頼しているなんて本当に何者なんだよ神崎は」
信頼されてるといいんだけど。何しろついこないだまでは俺も他の男たちと同様に嫌われていたからな。俺と高崎が二人のもとへ向かうと、二人は駆け寄ってきた。
「神崎!!大丈夫よ、私があんな噂一瞬で消してあげるんだから。あの天王寺・・?とかいう男、私が予想していた通りにクズだったわね」
「神崎くん。私達上級生のあいだでも噂になっていたわ。神崎くんと仲がいい私も色々と聞かれたけど、全部ちゃんと丁寧に説明しました。なので少なくとも私達の学年は誤解だということがわかっていると思います。
ですが・・神崎くんの学年はそうもいかないみたいですね。さっきからチラチラと見られているし・・」
そこへ、咲良と理子までやってくる。しかも、その隣には東雲までもがいた。なにやら切羽詰った表情でこちらまで走ってくる。
「はぁ・・はぁ・・!兄さん!」
恐らく下級生にも広まったんだろうな・・。それにしたって普通そこまで広がるか?いや、でも天王寺ならやりかねない。
「状況はだいたいわかってるわ。あんなめちゃくちゃな情報を流すなんて信じられない・・。それに信じる人も信じる人よ!兄さんのこと何も知らないくせに!」
そうして熱くなる咲良を理子が押さえる。とても珍しいことだった。いつもは理子が咲良にたしなめられているのにな。
「お、おお・・美少女がこんなに揃ってる。拝んでおこう」
こんな状況になっても、高崎はそのまんまだった。って本当に拝んでるし。
「とりあえず、私たちのところにまで来た噂は私が消し去ってあげたから」
「あの時のお姉ちゃんすごかったもんね。お兄ちゃんが無実だってこと、全部論破していったもん」
「ええ・・・だけど本当に情報がめちゃくちゃなのよ。そんな情報に踊らされる皆もおかしい___」
その時突然、校内放送が流れた。それだけなら珍しくはないのだが、その内容に俺たちは驚く。
『ぴんぽんぱんぽーん♪神崎くん今どうしてますか~』
「な!?天王寺?」
どういうわけかは知らないが、校内放送から流れてきた声は天王寺そのものだった。
食堂内に動揺が走る。
『どうですか僕の余興は。楽しんでいただけましたか?
所詮人間なんて噂程度ですぐ手のひらを返すようになるんです。わかっていただけましたか?』
天王寺・・。一体何がしたいんだ。それにどうやって放送室を乗っ取ったんだ。色々と疑問は残るが天王寺はさらに続ける。
『実は、これからが本当の復讐なんです。ほら、外を見てみてください』
そう言われて俺たちは食堂の窓から外を見る。周囲にいた人達も気になって外を見ると、そこには信じられない光景が広がっていた。
「おいおい・・・・まじかよ・・・・・」
外のグラウンドに、埋まりそうなほどのたくさんの柄の悪そうな連中たちが集まっている。木刀を持っていたり、バイクに乗っていたり、その数はざっと見た感じ4桁に登りそうな勢いだった。校門付近には警備員と思わしき人物が横たわって倒れている。強引に押し切られたのだろう。食堂にいた人達が思わず腰を抜かした。
「お、おい・・・何だよあいつらは」
そこへ、再び天王寺がこういった。
『彼らは皆神崎くんに恨みがある者達です。どうですか?驚きましたか?
今回、私がこっちにやってきた本当の目的は復讐することです。その為ならどんな手段に訴えてでも神崎くんを始末します。例えその後僕がどうなろうともね』
そこへ、グラウンドにいた奴らが掛け声を上げたかと思うと、大声でこういった。
「神崎ぃ!!そこにいるのはわかってんだよ!!さっさと出てこいやァ!!!」
ちっ・・・。まさかこんなことになるとは。俺は少し天王寺の執念をあまく見ていたかもしれない。
咲良たちが心配そうに俺を見ていた。
「兄さん・・・。逃げたほうが」
「いや、仮に逃げたとしてもし校舎内まで入ってきたらどうする。あいつらは俺を倒すためなら犯罪行為も普通にするだろう・・。そうなれば取り返しのつかないことになる」
「でもだからって神崎が行ったとしても危険なだけだわ!」
人間、どうにでもなっていい時が一番怖いんだ。俺にも一度そういう時はあった。まあこれとは少し違うが。それは両親が死んだ時だ。だが、俺には咲良と理子がいたから立ち直れた。だがこれは・・
俺はそうして二人の制止を聞かないまま、食堂をあとにする。先輩と東雲には安全な場所まで皆を連れて行
ってもらうように頼んだ。木島がずっと何か言っていたが、俺は聞かないようにした。
廊下に出ると、待ち構えていたかのように宮内がいた。その表情は苦渋に満ちている。
「ん、どうしたんだ宮内。そんな嬉しそうな顔をして」
「誰が嬉しそうな顔だ!貴様を見て嬉しくなんてあるものか!」
宮内は宮内だった。俺はそのことに安堵しつつ、何か要件があるのだろうと思い、たずねる。そういえば宮
内は俺に忠告してくれたんだったよな。
「貴様にひとつ言っておきたいことがある。俺は貴様が大嫌いだ。・・・だが、あの人に頼まれては俺は逆らう
ことができない。だから仕方なくなんだ」
「???」
言っている意味がわからず首を傾げると、宮内はそのまま去っていってしまった。
一体なんだったのだろうか・・。
「神崎ぃぃ!!早く出てこいやァ!!」
っと、早く行ってあげないと奴らが待ちくたびれているようだ。
俺は周囲からの視線を感じながら、グラウンドへ向かったのだった・・・・。




