切実な思い
「いいや、彼女ではないぞ」
そう言うと、理子はほっとしたように息をついた。
「じゃあそれならなんで知らない人がここにいるの?」
警戒するように俺の背中から木島を見る理子。木島は落ち着いて息を整えると、こういった。
「私は神崎と同じバイトの同僚なの。今回その・・・神崎が怪我をした原因は私にあるの」
木島が理子にそう告げるや否や理子が木島を睨む。
「あなたがお兄ちゃんを傷つけたの・・?」
静かな声で問い掛ける理子。いつもの様子とは違い、その声には怒りが浮かんでいることがうかがえた。俺は慌ててフォローに入る。
「待て待て、誰が木島のせいって言った?あれは俺が勝手に庇っただけだ。別に木島が傷つけたわけじゃない」
「でも私がちゃんと神崎の忠告を聞いていたらこんなことにはならなかった。だから私のせいよ・・・」
ああもう・・その話は終わったはずなのにどうして蒸し返すんだよ・・・!っていらいらしていても仕方がない。俺は心を落ち着かせる。
「理子。だから別に誰が悪いわけでもない。俺が勝手にやっただけのことだ。だからそう木島を睨まないでやってくれ」
俺が頭を下げようとすると理子は慌てて止めに入る。実の妹に頭を下げるなんて人生で初めてかもしれない。
「う、うう・・お兄ちゃんがそういうなら。
そ、その木島先輩すみませんでした」
「あなたが謝ることはないわ、悪いのは私なのだから・・」
そうしてお互いが謝りあっているところへ、咲良がやってきた。
「ああ、兄さん・・本当に目が覚めてた」
理子とは違い抱きつくことはしなかったものの、俺の元気な姿を見て涙が出そうになっていた。
そのままベッドの横に腰掛けると、お見舞いのロールケーキを置いてくれた。
「ごめんなさい。思った以上に混んでいて遅れてしまったわ。えっと、あなたは・・」
そこで俺は理子と咲良に、事故の経緯を詳しく説明した。俺が裏道を通ろうとしたら木島がいたこと、助けたのはいいけど木島が再度襲われて咄嗟に助けに入った俺が大怪我をしたこと、それで病院に運ばれたこと。
二人共話の腰を折ることなく静かに聞いてくれていた。
「お兄ちゃんを傷つけるなんて許さない・・・!」
「全くだわ。集団で一人に刃物を向けるなんてなんで下衆い連中なのかしら・・。今度見つけたらただじゃおかない・・・」
「まあそう熱くなるな。それに全員捕まったんだから」
怒りで限界に達しそうな二人を俺はなだめると、改めて包帯でぐるぐる巻きの手を見る。まだ痛みはあるが、大分ましになってきていた。
「・・・よし、もう退院手続きをしに行くぞ」
「え!?何言ってるのお兄ちゃん。まだ安静にしてなきゃダメだよ!」
「そ、そうよ神崎。また悪化したらどうするの」
「ん?だって怪我してるって言っても片手だろ?入院するまでもないじゃないか。歩けないわけでもないし。日常生活が少し大変になるだけでここにいても変わらないだろ。それに入院費用も馬鹿にならないし」
そう言って俺はベッドから立ち上がる。全員納得のいかない表情をしていたが、俺は退院手続きをすませたあと、病院をあとにする。途中、手術に立ち会った医者が元気な俺を見てとても驚いていたのはいうまでもない。
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そのまま途中で木島とわかれて家へと戻る。3日ぶりの我が家は、特に変わったところもなく、至って普通だった。
「兄さん、本当に大丈夫なの・・?まだ戻ったほうが」
「大丈夫だって。まあ、料理はまだできそうにないからしばらく出前になるかもしれないけど、それ以外なら大丈夫だ」
「そう・・。じゃあもう私からは何も言わないわ。でも絶対に無理はしないこと!わかった?」
俺が頷くと咲良はよろしいと言って部屋へと戻っていった。あとに残されたのは俺と理子。
「二人共ご飯はどうしてたんだ?」
「お姉ちゃんが作ってたよ。滅多に作ってくれないから、かなり美味しかったよ。でも、お兄ちゃんの味のほうが私は好きだな」
「嬉しいことを言うんじゃない」
そのまま理子の頭をがしがしと撫でる。
「ちょっと~髪がぼさぼさになっちゃったじゃない・・」
そう言うがまんざらでもない様子の理子を見て俺はようやく家に帰って来れたんだなと実感する。二人に多大な迷惑をかけたことは本当に頭が上がらない。もうへまはやらかさないようにしよう。
その後、いつもよりも俺にべったりな理子と、咲良までもが俺をずっときにかけてくれていて少し気恥ずかしかったが、それだけ大切にされているのだと思うと俺は嬉しくなったのだった____。
◇◆◇◆
裕人が以前まで住んでいたマンションの近くの空き地にて、またまた2人の男と1人の女が集まっていた。正斗と玄三、それに理奈だった。
「はい、本日の報告会~」
そう言って正斗は気だるそうに肩をすくめる。
「まずは俺からー・・、とりあえず、他県の俺の知り合いに聞いてみたけど、兄貴らしき人物はいなかったということで、はい次玄さん」
玄三はこほんと息を整えると、紙に書いてあることを読み上げる。
「まず、もうこの辺にはいないことは確実だと思っていい。この辺にいたのなら絶対に見つからないのはおかしいからな。何より、頭カシラはこの辺のごろつきからはかなり有名なはずだ。もしいたのなら噂になっているだろう。俺も何人かごろつきを締め上げて頭のことを知らないか吐かせたが、全員知らないということだった」
正斗が神妙な顔で頷く。
「なるほど・・んで理・・じゃなかった皆本っちは?」
「・・・・」
「残念ながら皆本はもう限界寸前のようだ。話しかけても返事をしないことが多い」
「おいおい・・・まじで早く兄貴を見つけ出さないと皆本っちが本当に大変なことになるぞ・・」
理奈はもはや虚ろな表情で裕人・・・とひたすら呟いているだけだった。それでも報告会には来たのだから、よっぽど裕人の行方を知りたかったのだろう。そんな理奈の頭を玄三が撫でる。
「心配すんな。もうじき見つかるさ。少なくとも日本に出ていないのなら、いくらでも探す宛はある」
「・・・」
普段の理奈なら裕人以外の男に触れられることを極端に嫌う理奈だったがもうそんな気力もないのか、ずっと座り込んでいるだけだった。
どうしたものか・・と全員が考えているときに突然正斗の携帯が震えた。
「ん?なんだよ母さん、今ちょっと報告会が・・ってえ?親父が・・?
・・・うん、・・・ああ、・・・わかったすぐに行く」
「何かあったのか?」
「親父がぎっくり腰になったらしい。だから悪いけど親父の様子見に行ってくるわ。だから2日程俺いないから」
「そんなに場所が遠いのか?」
正斗はこくこくと頷く。そのまま、走り去っていった。あとに残されたのは玄三と理奈のみ。
「頭ァ・・、さっさと姿を見せろよな・・・」
玄三の切実な思いが空き地内へと響き渡った_____。
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