転校生
朝。けたたましい目覚まし時計の音で目が覚める。
俺は半分眠りながら、時計を止め時間を確認する。時刻は6時を過ぎたところだった。
「ふわぁ・・・眠い・・」
まだ布団に潜っていたかったが、気合と根性で起き上がる。そのまま寝起き姿の状態でリビングへと入る。
当然ながら、理子と咲良はまだ起きていない。俺はキッチンに向かい調理器具と材料を取り出すと、二人の弁当を作り始める。
基本的に理子と咲良は料理ができないことはないのだが、極めて朝に弱いのでこうしていつも俺が料理を作っている。母さんに料理だけは叩き込まれていたので、三人で暮らし始めた時も料理は俺が担当していた。
そうしてその後は淡々と弁当のおかずを作っていく・・。仕上がった頃には二人が丁度起きる時刻となっていた。2階から足音が聞こえてくる。恐らく咲良だろう。理子は多分まだ寝ているんだろうな・・・、仕方ない。起こしに行くか。
こうして理子を起こしに行くのは初めてではない・・というかほぼ毎日だ。そろそろ自分で起きて欲しいと思うのだが。
2階へ行き、理子の部屋をノックする。・・・が、当然のことながら返事なし。うん、おっけーだな。
俺はドアノブをひねり、中へとはいる。布団の中に、気持ちよさそうに寝息を立てている理子の姿があった。目覚ましは鳴ったみたいだが、全然ダメらしい。まったく・・。
「理子~・・・朝だぞ」
俺は理子の肩を揺すってみるが、全然反応なし。仕方ないので少し強めに揺らすと、その目が少し開かれた。
「んぅ・・・」
「やっと起きたか。寝坊助さんめ、もう朝食できているぞ」
「うんー・・」
「こら、また寝ようとするな」
「うぅ・・眠たいよー・・お兄ちゃん抱っこして」
「はぁ・・・仕方ないな。ほら、掴まれ」
俺はまだ寝ぼけている理子を背負うと、再びリビングへと降りる。既に咲良が朝食を食べていた。
「おはよう咲良」
「おはよう」
そのまま理子を椅子の上に座らせる。すると、咲良が少し睨むような視線でこちらを見てきた。
「兄さん・・・またそうやって理子を甘やかす・・」
「ん、俺そんなに甘やかしていたか・・?」
「ええ、それはもう。理子も理子よ、兄さんに甘えてばかりいないで少しは自分で行動しなさい」
「だって眠いんだもん・・」
「もん・・じゃない!」
そのまま朝からなぜか説教されるのだった・・。
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「じゃあ私とお姉ちゃんはこっちだからもう行くね」
あのまま説教をされたあと、いつも通りに学校に向かい現在は校舎内へといた。理子と咲良の通っている中等部は別校舎なのでここからは別行動だ。
そのまま二人と分かれて自分の教室へと入る。クラスメイトらと挨拶したあと、俺は自分の席へと座った。
すると、隣に座っていた男子に肩を叩かれる。高崎だ。
「よう神崎。相変わらずかっこ怖い面してんな~。妹ちゃんはあんなに可愛いのに」
「かっこ怖いってなんだよ。そんな表現初めて聞いたわ」
俺がそう言うと高崎がちっちっちと指を揺らした。
「かっこいいと怖いをかけてかっこ怖いだ。神崎にピッタリな表現だろう」
「普通にくっつけただけじゃねえか。何も面白くねえよ」
「まぁそういうな。それよりも、今日転校生が来るって知っていたか?」
転校生?へえ・・珍しいこともあるもんだな。ここの編入試験は結構難しいって言われているのに。
「知らなかったよ。まあでも俺たちには関係ない話じゃないか。このクラスに編入してくるとも限らないし」
そう言うとその言葉を待っていたかの如く高崎が眼鏡をくいっと持ち上げた。
「甘い、甘いよ神崎。それが実は関係しちゃったりするんだな~。なんとその転校生は、このクラスに編入してくるらしいのだ。しかも女!!」
「へぇ、そうなのか」
すると、高崎がずっこけそうになる。
「おいおいなんだその淡々とした反応は!!もっと喜ばないのか?転校生だぞ!?しかも女だぞ!?これはもう美少女というフラグしか経ってないじゃないかぁぁぁ!!」
「お、おい・・あんまり大声出すと・・」
あ~あ。高崎の大声にクラスのみんながこっち見てるよ・・。しかも女子なんかは明らかに蔑んでる感じがするんだけど・・。関係者と思われたくないな。
しかし、そんな俺の気持ちを無視するかのように、高崎が熱弁する。
「ほら皆ももっと盛り上がれよ!転校生だぞ!しかも女子だぞ!?これは俺にも春が来るチャンスなんじゃないのか!?」
それに乗ってくれたのは男子だけで、女子はゴミを見るような目で男子達を見ていた。
「ほら、神崎もそう思うだろう!?」
「いや、俺は別に・・」
別に興味もないので素っ気なく言うと、高崎が肩を掴んできた。
「そうか・・・。そう言えばお前には二人の可愛い可愛い妹がいたんだったな・・・。それなら別に女には困っていないということか・・・」
「女に困ってないとかそういう問題じゃなくてただ単にどうでもいいだけ__」
「おーいお前ら席に着けよ」
その時、担任が教室へと入ってきた。高崎は俺の肩から手を離すと渋々自分の席へと戻る。出欠を確認したあと、担任が転校生の話を持ち出した。
「えー知っている奴も多いと思うが、今日はこのクラスに転校生が来るぞ」
その言葉に騒がしくなる教室内。担任は手を鳴らすと静かにさせる。
「よしじゃあさっそく紹介するぞー。東雲、入れ」
「はい」
凛とした声と共に、一人の女の子が教室内に入ってくる。肩にギリギリかからない程の赤い短髪。キリッとした目と整った顔。豊かな胸と自信に満ち溢れるその姿に男子どころか女子までもがおもわず息を飲んだ。
よかったな高崎。お前の望み通り、美少女が来たみたいだぞ。
東雲と言われたその少女は、黒板に名前を書いていく。綺麗な達筆だった。
「東雲 渚だ。まだこちらに来て日が浅いので皆には色々と迷惑をかけてしまうかもしれないが、宜しく頼む」
そのままぺこりと一礼。やがてクラス内で拍手が起きる。
「おお、これはまたすごい人が来たな!しかもかなり可愛いし!!」
高崎は大喜びだった。・・いや、高崎だけでなく、クラス中の男子が手を叩いて喜び合っていた。
「静かに。・・えー質問したいことはたくさんあるだろうが、とりあえずもうすぐ授業なのでそういうのは休み時間にしろ。以上!ちなみに東雲の席はあそこだ」
「はい、わかりました」
そう言うと、担任が教室から出ていく。東雲が、ゆっくりと自分の席へと座った。皆は、転校生に興味津々のようだったが、すぐに授業が始まるので、質問もできないようだった。
俺は彼女の後ろ姿を少し眺める。背筋はぴんと伸びていて、その綺麗さに思わず感心していた。
しかし、俺はこの時初めて違和感を覚えた。この後ろ姿・・どこかで・・。
その時、不意に東雲と目があった。すると、東雲は信じられない様子でこちらを見てきた。
「な!?お・・お前は・・・!」
「ん・・?」
今俺のこと見て驚いてた・・?なぜだろうか・・・。
いつの間にか皆が席を立った東雲を見ていた。
「東雲、どうしたんだ?」
「い、いや・・なんでもない」
東雲は一瞬こちらを一瞥したあと、再び席へと着いた。そして間もなく授業が開始された。
この時俺は、他人の空似か何かだろうと思っていたのだが、実はそれはとんでもない間違いだということをこのあと知ることになるのだった。
良ければ感想を書いてもらえると今後の参考にしていきたいと思っています