不穏な予感
「言わなくていいっていったんだけどな・・・。先輩も人が悪い」
そう言って苦笑すると、俺はベッドから這い出る。
すると木島がとんでもないことを言い出した。
「私決めたわ。これからは神崎のために生きていくから」
「は?」
「どうやら私、自分の気持ちに気づいたみたいなの。
今まで神崎にしてきたひどいことばかり言っていた自分を殺してやりたい・・・」
「待て待て。そんなに自分を卑下するんじゃない。それに、罪悪感に駆られて俺のために尽くす必要もないから」
「でも、神崎があの時庇ってくれなかったら私死んでた。既に一度死んでいた私の命を、助けてくれた神崎のために使うのはダメなの・・?」
「いや、あのな・・」
上目遣いでそう言われて俺は返答に困ってしまう。だけど、木島の懇意に負けて俺は折れる。すると木島はとても嬉しそうな様子でありがとうと言った。
「でも、いいのか?木島は男が嫌いじゃないのか」
「ええ、男は嫌いよ。さっさと滅べばいいのにと思ってるわ。でも神崎は別。あなたは私の中の男という概念を変えてくれた。だからあなただけは嫌いじゃないわ。むしろ・・」
後半は聞き取れなかったが、木島は続ける。
「とにかく、神崎が無事で本当に良かった。もう、神崎の忠告を破るようなことは絶対しないから・・・」
「まあわかってくれたならいいよ。でもさ、一つ質問いいか?」
木島が頷いたのを確認して俺は続ける。
「なんであの道を通ろうとしていたんだ?あそこの通りは特に夜になると治安が最悪として有名なんだぞ」
俺がそう言うと木島はバツが悪そうに顔を伏せた。
「い、いや~・・。大した理由じゃないのだけれど、私バイトに遅れそうだったのよ。だから急いでいたのだけれど、裏道を使って直進すればわざわざ大回りする必要もないから早くバイト先に着くと思って通ったの。そしたらなんか怪しい男3人組がいて様子を伺ってたら何か注射器と薬物のようなものを持っていたから警察に通報しようとしたらもう一人後ろにいて、携帯を取り上げられたの。それで・・」
あとは大体俺が見ていたことと同じだった。
「警察に通報しようとする正義感はいいが、その前に自分の身の安全をしっかり確保してからじゃないと、時に取り返しのつかないことに巻き込まれることだってある。今回は俺が助けに来れたからよかったが、これからはむやみに危ないことに足を突っ込もうとするなよ?」
「うん・・。本当にごめんなさい・・・」
「よし、それならいい」
そう言って木島の頭を撫でてやる。
「神崎・・?」
「あ、わりぃ。いつも妹にやってるからつい癖で撫でてしまった。ごめん」
嫌がるかと思ったが、木島はまんざらでもないようで、頬を赤らめる。
「いや、別に嫌じゃないけれど・・。ただ男に頭を撫でられるのなんて初めてだから少し驚いただけよ」
「そうか。それはよかった」
そのまましばらく木島の頭を撫で続ける。その間俺は木島から今までの非礼について、ずっと謝ってきたので俺は別に気にしなくていいと言ったのだが、それでは自分の気がすまないと言うので、俺は何かないものか・・と考えるているとあることを思いつく。
「じゃあ、木島が男のことを嫌いな理由を詳しく教えて欲しい。前にも木島に聞いたことあったけど、それだけが理由ではないんじゃないのか?」
「え、ええ・・・そうだけど、本当にそんなことでいいの?」
「ああ。何か理由があったのなら、ああいう態度なのも理解できるかもしれない。だからよかったら教えてくれないか?」
やがて、木島はぽつぽつと男が嫌いになった経緯について語り始めた。小さいことから大きいことまでその理由は様々だったが、それは木島が男を嫌いになるのには十分な理由だった。
「だから私は男という生き物が大嫌いなの。多分、これはもう私の中ではこれから先変えられない真実だと思う」
「それはそう思っても仕方がないな。俺だって女子にそんな類のことをされたら大嫌いになっていただろう」
「え・・・?」
俺がそう言うと、途端に木島がうろたえはじめる。
「じゃあもしかして神崎はその・・私のこと嫌いなの・・?」
「ん??なんでそうなるんだよ」
「だって今まで私、神崎にひどいことばっかしてきたし・・。好きになってもらえる要素が一つもない・・・」
「確かに時々むかつくことはあったが、有栖川先輩から男嫌いという事情は聞いていたしそんなに気にしてないぞ。むしろ俺は木島のことはそれなりに好きだな」
そう言うやいなや、木島が飛び上がるようにして驚いた。
「え!?す、すすす好き!?」
「ああ。同じバイトの仲間としてな」
すると、さっきまでの驚きが嘘のように静かになる。
「そ、そうよね・・ええ・・わかってたわ。
私も神崎のこと今は、その・・・・・・」
後半が何を言っているのかよく聞き取れなかったが、恐らく今は信頼している、と言いたいのだろう。俺は勝手にそう思うことにした。
そうしてしばらく木島と喋っていると、突然病室のドアが勢いよく開かれた。俺と木島は同時に驚いてドアの先を見ると、そこにはたいへん見知った顔が。
「あ、ああ・・・お兄ちゃん・・!」
それは俺の大切な家族にして妹の理子だった。理子は俺を見るなり大粒の涙をこぼしながらゆっくりと近づいてくる。そしてそのまま俺に抱きついてきた。俺は怪我をしていない方の手で優しく理子を抱いてやる。
「う、うぅ・・よ、よかっ・・無事、で・・」
嗚咽を漏らしながら泣いている理子の背中をそっと撫でてやる。理子は、まるで俺を離すまいとするかのように俺のきつく服を握りしめて体を震わせた。
「泣くな泣くな。ほんと理子は昔から泣き虫だな。それに俺がお前たちを残して死ぬわけないじゃないか」
「だ、だって!!!お兄ちゃん3日も眠ったままだったんだよ!?私、お兄ちゃんがこのまま目を覚まさないんじゃないかって・・・そんな嫌なことばっかりが心を渦巻いて、頭がどうにかなりそうだった!!」
「すまない。それについては俺も困惑していたんだ。3日も眠っていたとは思わなくて・・」
そのまま理子が落ち着くまで俺は理子から目を離さなかった。木島はそんな俺たちに気を使ってくれたのか、ずっと黙ったままでいた。
やがて理子が落ち着くと、ようやくまともに話せるようになった。俺の服は理子の涙でかなり濡れていたが、そんなのは洗えば済む話だ。
「そういえば咲良は・・・?」
「お姉ちゃんは何かお兄ちゃんにお見舞いの品を買ってから行くって言ってた」
「そうか」
「ねえところでお兄ちゃん」
落ち着いたことでようやく周囲に気を配れるようになった理子が木島の方を向いた。
「その女の人って誰?お兄ちゃんの彼女?」




