過去回想
◇◆◇◆
神崎が病院に運ばれた後、私は警察から事情聴取を受けていた。
終わった頃になると、携帯に着信履歴があることに気づく。ゆみ先輩だったからだった。私と神崎が時間になっても来ないので心配してくれてかけてくれたんだろう・・。
私はゆみ先輩に電話をかけ、事情を簡単に説明すると、ゆみ先輩は仕事を放棄してこっちにすっ飛んできた。急いできたのか少し汗をかいている。
「神崎くんが病院に運ばれたって本当!?」
「はい・・・」
「そう・・・」
ゆみ先輩は沈んだ表情で事実を確認すると、近くのベンチへと座る。
「沙羅もこっちに座りましょう。ずっとたっていても仕方がないわ」
そう言われて私もベンチに座る。病院内は結構人通りが多かったが、私達の空気はお通夜ムードで、なにも話さないまま時間が過ぎ去っていく。
しばらくしてゆみ先輩がこう言った。
「どうして神崎くんは大怪我したの?」
先輩にそう言われて、私は神崎が大怪我したとしか言っていないことを思い出す。
私は涙を堪えながら、ゆみ先輩に事情を説明する。
「神崎はその・・・私を庇って腕を刺されました」
「腕を・・・?」
「はい・・・。私が神崎の忠告を無視したばっかりに__」
私はそれ以上話すことができず、堪えていた涙が溢れ出す。
先輩はそんな私を優しく抱きしめてくれた。
「大丈夫、泣かないの。神崎くんは絶対に助かるわ。
だってあんなにいい子が死ぬはずないもの」
先輩はそう言ってくれたが、私は不安が拭えなかった。
先輩は続ける。
「沙羅は知らないようだけど神崎くんってね、沙羅の為に色々と頑張ってくれていたのよ?」
「え・・・?」
神崎が・・?
私は俯いていた顔をあげて先輩を見る。先輩は私に微笑みかけると、話を続ける。
「そう。沙羅ってものすごい男の人が嫌いじゃない?だからなるべく男の人たちと接触しないようにって言って男の人達の接客は全部神崎くんが受け持ってくれたり」
私が男に接客しようとするといつも神崎が割り込んできたから最初は嫌がらせなのかと思っていたのに・・・。そんな理由があったなんて・・・。
「それだけじゃないわ。一度沙羅が体調が悪いにもかかわらずバイトに来て倒れたことがあったでしょう?その時に真っ先に動いたのが神崎くんだったのよ。他のスタッフは皆どうしていいかわからずにおろおろしていたのに神崎くんは迅速に沙羅を病院まで運んでいったのよ」
「え・・?ゆみ先輩じゃなかったんですか・・?」
神崎はゆみ先輩が運んだと言っていた。だからずっとそう思っていたのに・・。
「俺が運んだことを言ったら木島は嫌な思いをするだろうからって言って私が運んだことになっていたの。私は別にそれぐらいで沙羅は嫌がらないわって言ったのだけれど・・」
「・・・」
「あと、一度沙羅をナンパしようとした客がいたらしくてそれも神崎くんが撃退してくれたの。それに___」
そこで私は先輩を制止した。目の前が涙で歪んで聞き取れる状態じゃなかったのだ。今まで神崎は私のために色々と助力してくれていたんだ。それなのに私はゆみ先輩に気に入られているからって調子に乗ってる男と勝手にレッテルを貼り、神崎に嫌がらせもした。話しかけてきても無視したことも何度もあったし罵詈雑言を吐いたこともたくさんある。むしろ、普通に会話したことがほとんどないと言っていいかもしれない・・。なんて私は馬鹿なんだろう・・。人生の宝が近くにいたというのに、それにきづけなかったなんて・・・
神崎にもう一度謝りたい。いや、謝ってすむ問題じゃないけれどそうしないと私は一生後悔する。
神崎・・・無事よね・・?
「でも驚いたわ。沙羅が男の人のことで泣いてあげられるぐらい慕ってる人がいたなんて」
「え_?」
その言葉に、私は思わずはっとする。そうだ・・・。私は男が嫌いなのよ・・、なのになんで神崎が倒れたことでこんなに泣いているのだろう・・。普通なら男が傷つこうがなんだろうが私は特になにも思うことなく素通りしただろう。なのに神崎が倒れただけで・・
「ふふっ。どうやら気づいたみたいね。そっか~沙羅の初恋は神崎くんか~・・」
「ふぇっ!?は、初恋!?」
私は思わずベンチから落っこちそうなり、何とか体制を整える。
「そ、そそそんなわけあるわけないじゃないですか!私が、神崎に恋してるだなんて・・」
本当は先輩の言うことがドンピシャだということがわかっているのだけど、先輩の手前肯定するのは恥ずかしかった。
「そうなの?じゃあ神崎くんは私がもらっちゃおうかな?」
「え・・・?」
「神崎くん、バイトに入りたての頃は粗暴だったけれど徐々に変わって言ってあんなにいいお兄さんになったんだもの。それに前から神崎くんのことちょっといいな~って思っていたの。だからもし沙羅が好きじゃな__」
「ダ、ダメです!!いくら先輩でも神崎はあげません!!神崎は私がもらうんですから!!!!」
先輩が神崎のことをもらうと言った瞬間、私は胸の奥が締め付けられるように苦しくなった。そして気がつけば先輩にそんなことを宣言していた。
私がはっとした頃にはもう遅く、先輩はにやにやしながらこちらを見ている。私は乗せられたことを知って顔が赤くなった。
「ふふ。やっぱり沙羅゛も゛神崎くんのことが好きなんじゃない」
「え?私もって・・。それはつまり先輩も・・」
「さぁ、どうなんでしょうね~」
先輩はそういってはぐらかす。さっきの言葉は私に神崎を好きと言わせるための誘導尋問であったと信じたいけれど、もしゆみ先輩も神崎のことが好きなのなら、私は・・・。
「いや、ゆみ先輩でも神崎だけはあげません」
私は先輩にそう宣言する。
もう私は間違えない。絶対に___。
◆◇◆◇
上げ直しました。




