治安
次の日、今日は休日なので、俺は特に何をするわけでもなく家でテレビを見ていた。理子は部活でいないし、咲良も
用事で出かけていった。なので今この家には俺しかいない。今日も午後からバイトがあるが、バイトの時間まではまだだいぶある。
「少し出かけるか」
このままずっと家にいるのもなんなので、俺は散歩がてらでかけることにした。
外は快晴で日差しも強く、もう夏といってもいいぐらいだった。
「あちぃ…」
そういえば冷蔵庫の中の野菜が切れ掛かっていたはず。それに調味料も残り少なかったはずだ。ついでに買いに行くか。
そのままスーパーによった後、俺は携帯で時間を確認するといつのまにかバイトの時間が迫ってきていた。思った以上に買い物したせいか、時間をかなり食ってしまったようだ。
俺は菓子パンをほおばりながら、いったん家へと戻り、買ったものを冷蔵庫に入れた後再び家を後にする。
そのとき俺の携帯が震えたので、開くと咲良からだった。
『今日はちょっと遅くなりそうだから、晩御飯は理子と先に食べてて』
何時ごろなのかメールすると、23時位と帰ってくる。
23時まで一体何の用事…?俺は疑問に思ったがとりあえず了承の返事をして携帯を閉じる。
「おお、時間が結構押してきてるな」
仕方がない。裏ルートを使うか。
そうして俺は道を外れて人気のほとんどない路地裏のほうにまでやってくる。
「よし、このへいをこえれば…ん?」
そこで俺は近くで何か言い争っている声が聞こえてきたのがわかった。
この道は夜になると柄の悪い人達が入り浸っているとして一般人は昼でもほとんど通らない。だからこの時間帯は普通誰もいないはずなんだけど…
声がするほうへ向かっていくと、なにやら見たことのある顔ぶれがいた。
「あれは…木島?」
何でこんなところに?
木島は何やら4人の男に囲まれて何かを言い合っている。俺は気づかれないようにして、話が聞き取れる位置まで移動した。
「君、見てたよね。俺たちが密売してるところ。隠れていたつもりだったみたいだけど俺たちにはお見通しだよ」
「な、なんのことよ。私はそんなこと何も知らないわ。それより早くそこをどいて。目障りよ」
そういってその場から去ろうとする木島の腕を、丸太程の腕の太さのある男がつかんだ。
「きゃっ!!な、何するのよ離しなさい!!」
「待てよ。逃げようとしてもそうはいかねえぞ」
タトゥーの目立つ男が舌なめずりをする。
「だ、だから何のことって言ってるの!あんた達が何をしまいが私には関係ないわ!」
木島は嫌悪感をあらわにして男の手を振りほどこうとするが、びくともしない。
「嘘だな。そんなこと言っておいて、どうせ警察に言うんだろう?それにこんな人気のないところにお前みたいな女がこねえよ。ここの通りの治安の悪さは知っているだろう?」
男がそういうと、木島は首を横に振った。
「本当に知らないっていってるでしょ!もう離してよ!!」
木島は気丈に振舞っているが、その表情からは男に対する怯えが見てとれた。
「まあとにかく、残念だけど君もうおうちに帰れないからね。俺たちと一緒に来てもらうから。よく見れば君すごいかわいいからボスに懇願すれば愛人として傍に置いてくれるかもね」
「え…?」
「まあ心配すんな。ボスに気に入られなかったとしても俺たちが飽きるまで可愛がってやるから」
腕をつかんでいる男はいやらしい目つきで木島を見る。危機を悟った木島が暴れて逃げようとする。
が、腕力で男にかなうはずもなく、取り押さえられる。
「おい、ちゃんと押さえとけよ」
「いやぁ!気持ち悪い手で触らないで!!離して!」
「それはできないんだよ。まあ、運が悪いと思ってあきらめてくれや」
「だ、誰か___!_」
そうして叫ぼうとしたのを、男が手で木島の口をふさぐ。
「っ!?んむ、むぐぅ!!!」
「叫ばれると面倒だからな。口は押さえさせてもらう。
…おいお前ら、ずらかるぞ!」
そうして男達が木島を連れ去ろうというところで、俺は男たちの前に立つ。
「ったく、真昼間から何やってんだよお前ら」




