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苦学生裕人

「じゃあ今日もお疲れ様でした。お先に失礼します」


 先輩にそう言ったあと、俺はバイト先を出る。辺りは既に真っ暗で、通りには帰宅途中のサラリーマンが少なからずいた。近くの公共時計を見ると、現在の時刻は21時を回るところだった。

 今日は少し長く居すぎたかもしれない。いつもの平日なら、夕食時でもあまり人は来ないのだが、今日は何が起きたのか、夕食時には店の中は満員御礼でシフトを上がるに上がれず、いつもよりも帰るのが1時間も遅れてしまった。咲良には遅れることを伝えているので、適当にご飯は食べてくれていると思うのだが・・・。

 俺はやや急ぎ足で家へと向かう。バイト先から家までは徒歩でおよそ30分、学校からおよそ20分の距離の場所にある。自転車などは使わないので、いつも徒歩だ。まだ梅雨前とはいえ、夜でも中々暑かったりするので

少し汗をかいていた。

 やがて、家の近くの薬局につく。ここまでくれば、もう家までは目と鼻の先なので、俺は歩く速度を緩める。


「ん・・・?デザート類が50%オフか」


 薬局の入口前にデカデカとそのような紙が貼られており、俺は行ってみる。ケースの中に、プリンやムースやらがたくさん入っており、日にちがもたないので値引きされていた。

 ・・・よし、遅れたお詫びにこれを買って帰るとしよう。

 そうして再び帰途へと付く。 

 家に着くと、電気がついていた。俺は鍵を使って家内へと入る。


「ただいま~・・」


 流石にまだ寝ているということはないと思うが、一応控えめに声をかける。リビングに入ると、妹の理子がソファに座ってテレビを見ていた。俺の足音に振り返ると、そのまま傍に駆け寄ってくる。


「お兄ちゃんお帰りなさい!」


 そして俺の帰りを温かく出迎えてくれるかのように、優しく抱きしめられる。俺は理子の頭を撫でると、理子は嬉しそうに顔をうずめた。


「遅れてすまなかったな。ちょっと立て込んでいて出るに出れなかったよ」


 俺が謝ると、理子は首を横に振った。


「ううん。お兄ちゃんは毎日お仕事頑張ってるもの。だから全然謝ることなんかないよ!むしろ、こんな時間までお疲れ様だよ」

「そう言ってくれると嬉しい。はいこれ、お土産」

「あ、チョコケーキだ!これ食べていいの?」

「勿論さ。その為に買ってきたんだから」


 俺の家では、できるだけ贅沢をせずに生活しているので、基本的にお菓子、ジュース、デザートなどの余分な出費はあまりしない。なので、今日のような日は珍しいのだ。


「あれ?咲良は?」

「お姉ちゃんはお風呂に入ってるよ」


 チョコケーキを食べながら、そう言う理子。その顔は幸せそのもので、俺はこの顔を見ているだけで、活力が湧いてくるのだった。

 そうしてその後は理子と一緒にテレビを見ていると、咲良が入ってきた。


「あ、兄さん。お帰りなさい」

「ただいま。冷蔵庫にデザート入れておいたから後で食べていいぞ」

「そう。ありがとう」


 少し素っ気なくそう言う咲良。最近、咲良の俺に対する態度が少し硬くなったような気がする・・。昔はいつも俺の傍から離れたがらなかったのに。お陰で舎弟の正斗とワタルとも知り合いになっちまったしな・・。

 あいつらどうしてるんだろうか。

 俺は今から2年ほど前までは不良をやっていた。まあ、なんで不良になったのかはよく覚えていないんだけど、とにかく毎日喧嘩ばっかしてその度に怪我しては咲良に心配かけていた。それは本当に申し訳ないと思っている。まあそれは置いといて、その時俺にも舎弟・・・のようなものはいた。俺は別に舎弟を取る気はなかったのだが、向こうが懇願してきたものだからなし崩し的に舎弟にしていた。他にも何人か舎弟はいたが、ほとんど覚えていない。ただ特に仲が良かったあの3人は、俺がいないことをどう思っているのだろうか。両親が死んでから、俺は不良などをやっている場合ではなかった。なにせ、俺達三人がバラバラになってしまうかもしれなかったのだから。というのは、俺達三人全員を引き取ってくれる親戚がいなかったのだ。全員一人が限界で、それぞれかなり離れた場所にいるため、あまり会うこともできなくなると聞かされた。

 だから、俺達は親戚には頼らずに三人で生きていくことに決めた。当然、猛反対されたが親が遺してくれた遺産と俺がアルバイトをしていくことでギリギリ生活できるということを知り、反対を押し切った。

 そうして俺達は家も引っ越して新たに生活をすることにした。それでドタバタしたせいもあってか、舎弟達には何も言わずに行ったことは申し訳ないと思っている。・・・が、正斗とワタルはいいとして、気がかりなのは同じく舎弟の理奈のことだ。まあ、正斗とワタルがちゃんと保護していると思うが・・・。


「ちょ、ちょっと理子、あんたまた兄さんの膝に座って・・」


 不意に咲良の声が聞こえてきて、俺は意識を取り戻す。


「だってお兄ちゃんの膝に座るの好きなんだもん」

「そうかぁ?俺の膝なんて対して座り心地良くないと思うよ」

「そんなことないよ。お兄ちゃんの膝に座ってると理子安心できるの。お兄ちゃんに守られてる感じがして」


 そうして理子は俺の胸に頭を預けてくる。理子の髪からシャンプーのいい匂いが漂ってくる。長いサラサラな髪を梳いてやると、理子はくすぐったそうに顔をほころばせた。

 

「う、うう・・・」


 咲良を見ると何か羨ましそうな様子で理子を見ていた。


「咲良、どうした?」

「な、なんでもない!私、部屋に戻ってるから!」


 そう言って咲良は部屋を飛び出していった。 一体どうしたと言うんだろうか。


「お姉ちゃんも素直に言えばいいのに・・・。ま、それまでは私が独り占めできるからいいけど」

「ん?何か言ったか」

「ううん、なんでもないよ。お兄ちゃん、テレビ変えてー」

「はいはい」


 そうして俺達は暫くテレビを見ていた。相変わらず、理子は膝の上に乗ったままだったが、軽いので全然負担にはならなかった。

 ふと時計を見ると時刻は既に23時を回っていた。


「さてと、そろそろ俺も風呂に入って寝るか・・。理子?」


 いつの間にか俺にもたれかかって寝ている理子をそっと揺するが起きる気配がない。


「このまま起こすのも可哀想だな・・」


 俺は理子を抱きかかえると、そのまま理子の部屋のベッドまで運んでいった・。

 その後、俺は風呂に入り、疲れを癒したあと、部屋へと戻る。咲良の部屋の電気も消えていて、既に寝ているようだった。

 窓を開けて風呂で火照った体を冷やす。夜風が気持ちよかった。しばらく涼んだ後、窓を閉める。


「ふぅ・・・そろそろ寝るか」


 明日も学園なので、俺はもう寝ることにした。布団にもぐり、横になる。ふと顔の向きを変えると、一枚の写真があった。写真の中には俺にしがみついている咲良とその逆サイドに抱きついている一人の女の子。その横に二人の男が肩を組んでいた。理奈と正斗とワタルだった。


「懐かしいな」 


 俺は写真を大事にしまうと、電気を消した___。


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