Spring has come
暗く分厚い雲間から、最後の雪の一片がひらひら静かに舞い降りる。
それが地面に落ちた時、一瞬全てが動きを止めた。
寒い冬とのお別れだね。
風が雲を吹きさって、優しい太陽、顔を出す。
雪が溶けて水になって、小川をさらさら流れてく。
寂しい枝や大地にも、緑や花が茂っていった。
緑は青々、花は爛漫、大地を色で飾るよう。
鳥や動物たちが我先にと森から飛び出して、野原を元気いっぱい跳ねまわる。
まるで「待ってました!」と言うかのように。
春の明るい木漏れ日が、それを優しく見守っていた。
やがてウサギがこう言った、パーティーしようよ、みんなでさ!
みんなはそれに大賛成。
すぐに木の実や果実を持ち寄って、楽しい宴の始まりだ。
しばらくしたら、一人の少女がやってきた。
細い杖を持った長い亜麻色の髪が特徴的な、可憐な少女だった。
陽気な春の宴会に、魅かれて一人で来たのかな?
「これ、あげるよ」
リスが一匹、駆けていき、木の実を前に置いたけど、彼女はそれに気付かない。
みんなが不思議に思っていると、彼女はまぶたを閉じたまま、悲しそうにこう言った。
「私は光が見えないの」
「みんなは楽しそうだけど、そんなに春が嬉しいの?」
みんなは顔を見合わせた。
森で一番賢い長老の、ふくろうさえも言葉に困ってうつむいた。
その時一羽の小鳥が飛び出して、彼女の肩に舞い降りた。
「悲しいことを言わないで、わたしが歌ってあげるから!」
小鳥は息を吸い込むと、ゆっくり静かにさえずった。
~♪~♪~♪~
綺麗な綺麗な歌だった。
それは幸せと、喜びを運ぶ、希望に満ちた調和の旋律。
もしも詩人がいたのなら、曲には春と名付けただろう。
瞳を閉じて聴いていても、瞼の裏に鮮やかな、春の景色が浮かぶから。
みんなは黙って耳を傾けた。
やがて調べが止むと、辺りはしーんと静かになって、視線は少女に集まった。
みんなが自分を見ていることに、気付くと彼女は呟いた。
その目にきらりと涙が光る。
「色んな色で溢れてる、……これが春の景色なの?」
「そうだよ、そうだ、その通り!」
お調子者のキツネがとび跳ねる。
「小鳥が春を見せたんだ!」
「ぼくらも小鳥に続くんだ、彼女に春を届けよう!」
キツネがいったその一言で、みんなが楽器を取りだした。
キツネはギターをかきならし、リスはクルミのマラカスを。
ふくろう長老オカリナで、タヌキは自慢のそのおなか。
やがて少女も涙を拭いて歌いだし、野原に響くハーモニー。
楽譜なんてないけれど、不思議と音はまとまった。
きっと心が一つになって、音も一つになったんだね。
楽しい春の演奏会は、日が傾くまで終わらなかった。
「そろそろキミも、おうちに帰らないと」
「いやよ。まだここにいたいわ……」
「パパやママが心配するよ?」
少女は涙を流して嫌がったけど、森のみんながなだめると、ようやく静かに頷いた。
「ありがとう……」
そう言って少女は背を向けた。
少女の影が丘のふもとにさしかかると、小鳥が歌うように鳴きだした。
「来年も、いいえ、またいつでもおいで!」
彼女はくるりと振り返える。
「いいの?」
森のみんなは声を揃えてこう言った。
「「「もちろん!!」」」
「楽しかったよ! ありがとーー!!」
二度目の少女のありがとうは、広い野原に木霊した。
杖で道を確かめながらも、その足取りは、とってもとっても軽やかだった。
その背中が、地平線の端に消えるまで、みんなは手を振り続けた。
そして、お別れを言い合って、それぞれのうちへと帰っていった。
皆が帰ったそのあとには、そよ風のみが草木を揺らしてた。
そよそよと、そよそよと……
春は誰にも訪れる。今は冬でも吹雪でも、きっといつかは訪れる。
窓を開けて耳を澄ませてみてごらん? 小鳥の歌が聴こえたなら、春がそこまできてるかも……。
どうでしょうかね……。
結構頑張った作品ですが皆さんの反応や如何に。
とにかく感想待ってます。