Doesn't it dance together with me?
結局、あのカボチャ頭の社長には会えずじまいだった。
学校の下校途中、私は数日前のことを思い出す。
あのあと私は愉快な怪物たちと一緒に話しているうちにあっという間に時間が飛び、門限を軽く通りすぎ
まだいたらどうだと言う彼らの制止を振り切って家に帰った。
家に帰ると爺様がものすごい剣幕で待っていた。門限に遅れた理由を説明しろと言われたがあの状況をどう説明するわけにも行かず、道に迷ったとか適当なことを言ってごまかせたのだが。社長に会えなかったのはどう説明するわけにもいかず、お前が事務所に行くのがとろいとかなんとかご説教を受け、結局
爺様から解放された時には夜が明けていた。
まったく。私も私だ。あんなところに遅くまで居るなどどうかしている。その次の日も朝早くから学校だったというのに...まぁ、愚痴っていても仕方がない。
「はぁ」
あの日の疲れは何日たっても癒されることはなくむしろ学校の学業をこなす事でさらに疲れがたまっている。ともかく、今日はもう早く帰って眠りたい。
帰って寝たい帰って寝たい帰って寝たい。
そんなことを繰り返し繰り返し考えていると、のんきな声が私の耳をつんざいた
「やぁミシェル君、調子はどうだい」
話しかけてきたのは同級生のレイブン。彼は頭がいいくせに授業をサボったり居眠りをするせいでいつも成績は悪い方にいる。ちなみに彼の家は富豪の家だ。まったく、才能も金も地位もあることに甘えて
怠けているといずれ没落するぞ。
「あまり良いほうじゃないよレイブン君」
「はは、そうかいそれは良かった」
「私は良いとは思えないんだがね」
「最悪よりはいいんだよ、そんなことよりね」
彼はきっと私の話など聞いてないぞ
「そんなことより?」
「僕は昨日学校が休みだと思って休んだら登校日で、結果的にサボってしまったことになっているんだ」
「ほぅ」
「だから、ね?わかるだろう」
「さっぱりわからないね」
「この間の授業内容を教えて欲しいんだよ。僕の家でさ、勉強会みたいなものだよ」
「自業自得だね、私には関係ない」
「そんなこと言わずにさぁ...ほら、人助けだと思って」
「残念ながら、今はそう言った気分にはなれない」
彼は私が何度断ろうと様々な条件付きで頼んできた。そのうち土下座するとまで言い出したので、私は折れるほか選択肢がなかった。
「わかった、わかったよ」
「本当かい!わぁ...助かるよミシェル君」
「ただし、君の家に向かうのは夜になるよ」
「なぜだい?」
「いま私は眠くて眠くてしかたがないのさ、それが承知できないなら今日の話は無かったことに」
「うーんー仕方がないね。了解したよ」
夜に彼の家へ行くことを承知したあと、私たちは別れた。
帰りがけにも色々あったけど、なんとか我が家にたどり着いた。さ、さっさと寝てしまおう。
私は着替えもせずにベッドに横になった。
もう何時間眠っていたのだろう。何の前触れもなしに目が覚めた。
ごろりと寝返りをうって時計を見る
「六時か」
約束の時間は七時だが、私は途中で何があってもいいようにいつも一時間早めに出ることにしている。
着替えの必要はない、さっさと荷物を詰め込んで私は彼の屋敷に向かった。
「おーい、レイブン君」
彼の家の門へ着いた私は、いつもしているように彼へ呼びかけをした。
「いないのだろうか」
勝手に人を呼びつけておいて、なんて奴だ
このまま帰ってしまおうかと思ったが、なんとなく気になって門に触れてみた。
すると、門はきぃと音を立てて開いてしまった。
中にいるのだろうか?試しに扉に手をかけてみる。
するとどうだろう、扉の鍵もかかっていない。
「アイツ、私をからかっているな」
ムキになった私は、彼の屋敷の中に入った。
屋敷の中は暗く、あたりは静寂に包まれていた。
おかしいな、ご家族もいないのか?
「おーい、いるんだろう。ふざけてないで出てこいよ」
何度か呼びかけを試みても、彼からの返事は一向に返ってこない。
おかしいな、上の階から人の気配がするのだが。
諦めて帰ってやろうかと思ったとき、二階の方から大きな、物が倒れるような音と共に金切り声が聞こえた。そしてそれまでの静けさが嘘のように金切り声と爆音が止まらなくなった。
なんだ、強盗に巻き込まれているのか?...いや、違う。彼の家は母、父、彼の三人暮らしのはずだ、こんなに大量の叫び声が聞こえるはずがない。
何故か、私はこの感じを覚えている。何だ?
そして次の瞬間脳裏にあの夜のことがよぎった。そうだ、思い出したぞ。この声は
天使の殺される声だ。
私は謎の衝動に駆られ二階へ駆け上った。するとどうだろう。そこには煙幕のような煙とすでに死んだと思われる天使たちが転がっていた。
「嘘、だ。まさかここにも」
確かにあのカボチャ頭は富豪の家は天使をかくまっていると言っていたが
まさか、まさかこんな
「ハッ、ここの天使どもも大したもんじゃないねェ」
「まったく、こんなんじゃボクたちの足元にも及ばないよ」
ふと後ろの方から聞き覚えのある声がした。急いで後ろを振り返った。
「シャーロット!ストロベリー!」
煙の中のふたりが明確に見える距離まで近寄ってくる。
「ん?あれ、お前ミシェルじゃねーか。なんでこんなとこに」
「こっちこそ聞きたいよ、なんで君たちが」
「そんなこと言われてもねーぇ。ボクらお仕事に来ただけだし。
不思議そうな顔で私を見る双子。そしてお互いの顔を見合わせてふ、と笑った。
「んーなんだかよくわかんねーけど。ここじゃあぶねぇから守ってやるよ」
「しょーがないなぁ。せいぜい巻き込まれないようにね」
すると、彼らの後ろから逆上した天使たちが向かってきた
「き、君ら後ろ!」
と私が言い切るか言い切らないかのタイミングで、一方の天使は細切れになり、また一方の天使は鈍い音と共に下に落ちた。
「あァ?んなこと」
「わかってるよ」
流石にそちらのプロといったところだろうか。とうの私はといえば腰を抜かして座り込んでいた
「まァたく、だらしのねぇお坊ちゃんだこと」
「ホントホント、君ほんとに男の子?」
彼らは私をかばう様に前に立ち、そう言った。
シャーロットが腕を振れば、みるみるうちに天使たちは細切れになり、ストロベリーがハンマーを振るたびに鈍い音がした。
いくら目をつぶってその光景を遮ろうとも、その音消えず耳を塞いでも瞼の裏にその光景は浮かんできた
今私の前で笑いながら天使を殺す彼らには、きっと悪も正義もないのだろう。ただ単に仕事をこなし
殺す行為に喜んでいる。そして今、私を善意で助けている。
ああ、なんだかとても情けない。今の私も、これまでの私も。
そんなことを考えていると、私の後ろからものすごい声を上げながら天使が向かってきた。
どうやら天使の狙いは私らしく、手に持った大きながれきをこちらへ振り下ろさんとしている。
あ、これはもうだめだと脳が判断したらしく私は目を見開いたまま制止した。
するとどうだろう。振り下ろされると思ったそのがれきは私の方へ落ちてはこなかった。
「おい。そいつはアタシらの友人だぞ、手え出すんじゃねえ」
声のする方へ目をやると、シャーロットがものすごい剣幕で天使を見ている。
どうやら彼女の糸で天使の動きを封じているらしい。
「まったく、手間がかかる友人だこと」
呆れたようなストロベリーの声がしたかと思えば、彼はふわり途中を舞い、空中で振り上げていたハンマーを天使に振り下ろした。
頭の原型のなくなった天使が私の横に転がった
「ひっ」
後ずさりする私を心配そうに見ながら
「怪我ァないかい?」
とシャーロットが手を伸ばした
「あ、あぁ。おかげで助かったよ」
彼女の手を借りながら私は立ち上がった
「危なっかしいねー君は。もう少し反射神経をあげなよ」
腕組をしながら微笑んで言うストロベリー
「うん、ごめん。ありがとう」
「礼なんざいいんだよォ。もうそんな仲じゃねえだろ」
彼らは私のことを友人と言った
「友人...私が?」
「あ、こんな化けもんと友人じゃ嫌かい」
「そういえば、君、ボクらが殺りあってんのみるの始めて、か」
寂しそうなシャーロットとやってしまった、という顔のストロベリー。
「や、そんなことはないよ。君らは私の命の恩人だ。それに私は君らの戦闘をみたのは、初めてじゃないんだ」
そう言うと驚いた顔で私を見る二人。
「実を言うとね。私は昨日君らと会う前に君らの社長からよくわからない機械を渡されてね。その機械で映し出された映像で、君らを見たんだ」
「えっじゃあお前が社長の言ってた市長のご子息」
「なるほどおぼっちゃまなわけだー」
どうやらあのカボチャ頭は私があの事務所に最初に出向いた時に社員に私の話をして、プロモーションビデオ(という名の実況)を見せて、常連になってもらおうとウキウキしながら言っていたらしい。
「そ、そんなことを」
「まぁ、な」
「私はあの時恐ろしいと思ったよ。でもこの間君らと話した時と今日のことで、なんだかそんな気持ちはどこかに飛んでいってしまった....君らこそいいのかい?」
「何が」
「その...友人」
「気にすんな気にすんな!一晩騒ぎゃだれでも友人よ」
「ま、友人までは許すけど姉さんと恋人になったら...わかるよね?」
ニカッと笑うシャーロットとにやりと笑うストロベリー
「うん、それなら良かった」
「さァーて、ここいらは片付いたし。そろそろアイツと合流しようや」
ているそう言って私と肩を組むシャーロット
「もうひとり来てるのかい?」
「ああ、キティがね」
キティと言うのは、あの幼い吸血鬼だ
「あァ、向こうもかたずいてるだろうしな」
そう言うと彼らは私の手を引くように三階へと連れて行った。
三階の光景は、また凄惨なものだった。
三階に隠れていたと思われる天使たちは恐らく一人残らず壁から立っている黒い刺のようなものに刺されているのだろう。
廊下の中心で黒い刺に囲まれて立つ小さな吸血鬼がこちらを見る。
「何をしていた。我はもう終わっているぞ」
「ワリィワリィ。ちょっとな」
「む、そやつは...」
「この子を守りながら殺ってたんだ、ねぇミっちゃん」
「ミっちゃんって....久しぶり、キティ」
彼は少しむっとして
「だからその名で呼ぶでないと言っただろう。まあよい。見たか我の力、我の血を床と壁に塗ればこのように槍が天使どもを自動的に突き刺してくれるという寸法だ。どうだ、恐ろしかろう」
彼がこのようにして戦っているのを見るのは初めてかもな、と思った矢先に傷つきながら立ち上がった天使が逃げようと歩いていると。
「だから、こんなふうに」
彼がパチンと指を鳴らすと、じゃきん。という音と共に天使を突き刺した。
「格好いい」
と思わずつぶやくと
「褒めろ褒めろ」
と鼻を高くする吸血鬼。
「それにしても何故貴様がここに...」
「ま、それは帰り途中に教えてよ」
キティの言葉を遮るように言うストロベリー
「うん、そうだね」
「ミシェルも疲れただろ。おぶってやるよ」
「姉さんがおぶるの?ダメだよそんなことそんなイケメンなことされたら惚れちゃうからダメ」
「じゃあストロベリーがやればよかろう」
「ったく、仕方ないなぁ」
また私が話す間もなくそれは決定してしまったようで、私はストロベリーの背に乗っていた。
私は帰り際にキティやキャンディハウス姉弟に何を話そうかと考えた。