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歌い踊る夜

結局、逃げ帰ってしまった。


あのあと私は、あの建物から死に物狂いで逃げ、もうどこを走っているか途中からわからなくなりながらもなんとか我が家へ帰りつこことができた。部屋に戻り、息を整えたあとあの建物でのことを考え直してみる。


えー奴の言ってたことをまとめるとこうだ。


人間のピンチにやって来た天使たちは最高に格好よく魔族を蹴散らし、人間を守った。人間たちはそれを感謝し、彼らの強さを称して用心棒になってくれと頼み慈悲深い天使たちはそれを快く了承した。その結果人間は天使をやしない、天使は人間を守るという約束をしてハッピーエンド。


そこまでは問題ない。酷いのはここからだ。


それから五百年間戦もなにもなく平和が続き、人間たちは長い安息を得た。しかし天使たちは用心棒として残っているため人間は天使を養わねばならない。多額の費用を出して養っているのに対し特に何もするわけでもない天使たちが邪魔になった人間たちは、金をかき集めて天使を殺すように依頼する。


よりによって、自分たちを一度滅ぼしかけた魔族に。


「ああ、ダメだダメだ」


そこまで考えてごろりとベッドに横になる。


ただでさえ天使だとか魔族だとか信じられないってのに、そんな話聞かされてもわけがわからないに決まってる。


どうせただのペテンだ、考えたって仕方がない。もう寝てしまおう


ベッドに横になったまま布団もかけずにまどろんでいると、ドアを叩くノックの音で夢の世界から現実に引き戻される。


「誰だい」

「メイドのアルテイシアでございます」

「何かようかい」

「はい、おぼっちゃま宛にお届けものが届いておりましたので」

「誰から」

「はい、送り主はジャック・ルイ様だそうです」


ジャック・ルイ。その名前を聞いた途端私はベッドから跳ね起きた。


「もしお受け取りにならないのでしたらこちらの方で処分いたしますが」

「い、いや、貰うよ」


ドアを開け、アルテイシアから渡された少し重い小包を受け取る。


「ありがとう、下がっていいよ」


アルテイシアは黙ってお辞儀を一つすると、静かに出て行った。


あの男から届いた、あのカボチャ頭のイカレた男からの贈り物はオレンジ色の包装紙に包まれている。


いったい、何が入っていることやら。


落ち着け、深呼吸をするんだ。ひっひっふー ひっひっふー


意を決して包装紙を破る。


すると、中から出てきたのは...何か、よくわからない。

なんて言うか鉄の箱みたいなもので、ボタンらしきものがぽつんと一つくっついてるだけだった。


この箱がなんなのかを少し考えたあと、恐る恐るボタンに触れる。


すると、強い光が辺りをおおった。

やはり、爆弾か何かだったのだろうか?確認のためにゆっくりと目を開ける。


目の前にあったのは、宙に浮く、テレビのようなもの、の中に映った


あの、カボチャ頭


「やあやあ、またお会いしましたねぇご子息」

「いっ、ジャック、さん」

「おやおやそんなに驚かないでくださいよご子息。ホログラムを見るのは初めてですかなァ?」


空飛ぶテレビに映ったカボチャ頭は画面に近づいたり離れたりしながら語りかけてくる。


「ほろぐらむ?」

「いやいや、通信方法は置いておいて。今回はご子息に我々の仕事ってやつを知ってもらいますべく

掃除の実況中継をしようと思いまして」

「実況中継?頼んでませんよそんな事」

「まあまあまあそんな釣れないこと言わずにー。これからご子息にはごひいきにしてもらわにゃならないんでねぇ」


自分の手をも似ながら首をかしげるカボチャ頭がうっとおしい。何がごひいきだ。


「いやはや、色々とおっしゃりたいこたぁありますと思いますが、そろそろ本番に入りますよ」


カボチャ頭がそういうのと同時に、ぱっと画面が変わる。


切り替わった画面に映っているのはやけに楽しそうに酒を酌み交わす小太りの男や女たち。その中に美しい女性たちが何人か混じっている。


「これは?」

「天使ですよ、天使」

「あれが、天使?」


なるほど、確かにあの美しく可愛げに笑う女性たちは本当に天使のようだった。


「ところでご子息、天使はあの中に何人いると思われますか?」

「えっ、と五、六人くらい」

「ブーッ、女だけだと思ったでしょう。あの小太りの奴らも天使です」

「え、でも」

「彼らも昔は美男美女だったのでしょうが、長年の怠惰により変わってしまったのでしょう。美女達は天使の娘かそれとも人間とのあいだの子か」


もう一度小太りの奴らに目を向ける。だらしなく笑いながら肉を食い、酒を飲み、よだれを垂らす彼らは

天使と呼ぶには程遠い姿をしている、が。目を凝らしてよく見てみると彼らの背中に小さく縮こまった薄茶色の羽が生えていた。ふと美女達の背中を見てみるが、彼女らも同様に小さな羽が生えていた。


「てん、し?」

「さあさあご子息。面白いのはこれからですよ、これから」


唖然として天使たちを見ていると、宴会の音に混じって、キィ...とどこかのドアの開く音がした。


画面が宴会会場の入口の扉に切り替わる。天使が一人扉の方を見やる。


扉から入ってきたのは...一匹の猫である。


金と銀のオッドアイの猫がにゃあと鳴き声を上げて入ってきた。


「おお、なんと可愛らしい猫だ」


天使が猫を抱き上げる。猫はまたにゃあと甘えるように一声鳴いた


と、その刹那。


鳴き声とともに猫が、風船のように割れた。


宴会会場に抱きかかえていた天使の悲鳴と煙幕が立ち上る。


「な、何が起こって」

「は、は、は あれはウチのスタッフの作った猫風船ってやつです。本当の猫みたいで面白いでしょう?さあ、芝居の始まりですよ」


カボチャ頭の一言のあと、天使の金切り声が聞こえた。


煙幕に隠れてほとんど見えなんだが、一瞬のうちになんらかに バラバラにされた天使の破片が中を舞い、キラリとワイヤーのようなものが光った。その中心に縞模様の服を着た人物が見えた。


その人物に目を見張っているとまた別の場所から金切り声が聞こえ、そちらの方に画面が切り替わると、

長い、ハンマーみたいな物を持った人物が立っている。


「なんだ、あれは」


少しづつ煙幕が晴れ、宴会場の中心に先ほどの人物たちが集まっているのが見えた。

一人は縞模様のワンピースに、黒いネクタイをした銀色のショートカットの髪型の前髪で片目を隠した少女、もうひとりはゴスロリの、長い黒髪の少女。


「ぎゃーぎゃーうっせーなァ、大人しくしてろってんだよ」

「落ち着きなよ姉さん、騒いでくれた方がテンション上がるじゃないか」


嬉しそうに背中合わせで話す二人。剣を持って襲いかかってきた天使たちを俊敏にかわし、翻弄している


「彼女らは、一体」

「我社のスタッフですよ。社員ナンバー001および2番、キャンディハウス姉弟。ゾンビの双子です。

姉のシャーロットは片目に蜘蛛を飼っていまして、その影響か糸を使った切り裂き戦法を好みます。

弟のストロベリー、あのゴスロリのことですな。女装が趣味なのです。彼はハンマーなどを使った生け捕りを好みます」


嬉々として舞うように戦う彼らに圧倒され、私は声も出なかった。


そうこうしているうちに、双子の目を逃れ部屋の外へと逃走する天使たちがいることに気がつく。


「まァ、ここから逃げたとて逃げられはせんのですが」


また画面が切り替わり、暗い廊下で逃げ惑う天使たちのすがたが映し出される。


「この家のものはどうしたのだ!何なんだ奴らは!」


「あらァ、ご高貴でいらァっしゃる天使様が、一体どうしたのかしらァん」


暗い廊下から現れたのは、シルクハットをかぶり、首にリボンをした金と銀のオッドアイの婦人


「おい、ここの住人はどうした!」

「さァん、見捨てられたんじゃなァい?」

「な、何?」

「あんたらが太っちょでやくたたずだからそうなるのサ」


何を、この女!と天使が怒り剣を振るったかと思われた瞬間、機械の手らしきものが天使の体を貫いた。


「な、に?」


彼を貫いたのは、彼の背後に立っていた大きな金と銀の、頭に猫耳らしきものをつけた、巨大な人型の機械。天使の体から手を引き抜くと、シルクハットの婦人をその方に載せ、唸り声を上げた


「彼女は社員ナンバー003、ヘンリエッタ・マリーゴールド。彼女は我社のメカニックを担当していまして彼女が乗っているあの機械も、今ご子息が見ているホログラムも、あの猫風船も彼女が作ったもので、全て彼女の使う魔術で動かしているのでございます」


彼女もまた笑いながら機械を操り、天使を蹴散らしている。その、楽しそうなこと。


そこでまた画面が切り替わる


今度は玄関付近まで逃げ延びた天使たちの姿が映し出された


「撤退だ!一時撤退!」


と言いながら玄関に走る天使たちの前に、ひとりの男が立ちふさがっている。


「あの人は」

「そうです、あなたにコーヒーを入れた男ですよ」


少し前に私にコーヒーを入れてくれたあのくせっ毛の、執事服の彼が、今私の目の前の映像の中で天使の前に立っていた


「ええい邪魔だどけ!」


怒鳴る天使たちに微笑む


「そうゆうわけにも、いかないのですよ」


刹那、彼は大きな狼に姿を変え、目にも止まらぬ速さで天使たちを引き裂いている


「彼は社員ナンバー004、キャルビン・ベン・カートリッジ。いての通りの狼男です。普段は執事として雇っておりまして、こういった場に出すことはほとんどないのですがご指名とあらば仕方ありますまい。彼の大きな特徴は満月でなくても変身出来るところですな」


月夜に照らされ美しく輝く銀色の毛並み。ああ、これが全て夢ならば。


無情にも変わる画面。


今度は屋敷の裏庭らしきところだ。


中央に水色の着物を着た、着物と同じ色の髪を長く垂らしている女性がいる。


そこへ天使たちが


「すみませんが、屋敷の住人を知りませんか」


と聞くと


「すみませんが、あなたは私の旦那様ですか?それとも、天使様でございましょうか」


と、彼女が問う。


「は?はぁ、わたくし共は天使ですが」


「あら、天使様で、ございましたか」


と彼女が言うと、あたりに水色の蛾がふわっとあたりに舞った。

その美しさに思わず見とれていると、突如として赤い液体があたりに吹き出した。


蛾が、その場にいた天使たちを攻撃している?いや、蛾はそこを舞っているだけだ。


「社員ナンバー005、オオミズアオ。ジャパンから来た幽霊です。彼女は未亡人らしく、亡くなった夫の代わりを探し続けているのです。ちなみに彼女の攻撃方法は蛾の鱗粉を即効性のある毒に変えて相手に吸わせることで、死に至らしめるのです」


ひらひらと舞う美しい蛾と、それと対象的な血の赤。


「もう見たくない、やめてくれ」

「なぜです?まだお楽しみは残っているのに」


また切り替わる画面。そこにはすでに息絶えたと思われる天使たちが大量に倒れている。

そして、その奥で美女の首筋に噛み付いているのは、金色の髪をした黒いマントを羽織っている、少年?


「どうした、どうした天使ども!我はここにいるぞ、手も足も出ぬのか腑抜けどもが!」


「彼は社員ナンバー006、キティ・エーリヴェル・ヴラッドマン。吸血鬼です。体こそ幼いもののその攻撃力は絶大で我社最強といっても過言ではありません。幼いことを指摘すると顔を真っ赤にして怒り出すので、そこがまた可愛い」


可愛い?あの血まみれで笑ってる吸血鬼が?


ああ、悲鳴と笑い声で気が遠くなる。


「ば、化物どもめ...!」


遠くの方であのカボチャ頭の声がした


「はぁい、化物ですよ」

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