その後の二人と公彦の場合はじまる
その後、二人はそれぞれのパートナーと、それなりに幸せに暮らす。
結婚して1年後くらいに、亜佐美は長男を産んだ。
名前は優人。
里香子は、産休中の亜佐美の家に、望を連れて度々遊びに来た。
そして、望と優人を並べて昼寝をさせては、里香子が言う。
『この子達、兄弟みたいにそっくりねェ。』
そう言って、プレッシャーかける?つもりなのかと亜佐美は思うが、
(そりゃ、そうよ。卵は一緒だもん・・)
悔しかったら、もう一人産んでみな・・と腹の底でほくそ笑む。
正直言うと、
温厚な内田との暮らしは、平穏そのもので安穏とするが少し退屈だ。
でも、一哉と里香子がいるので、その暮らしもスリルとサスペンスに溢れてるし、
最近は同じ男を愛した里香子に妙な友情も感じてる。
(そういうのも悪くないかもね・・)
亜佐美は、里香子に愛想笑いをしながらそう思っていた。
“落ち着かない気持ち”でいるのは、なにも亜佐美と一哉だけでない。
丸山公彦も最近落ち着かない。
それは、ある女と出会ってしまったから・・
その女との出会いは、昨年の震災の夜のこと。
いわゆる帰宅難民の一人になって、街中を彷徨っていた時だ。
(どうしようかなあ~~。どうすればいいんだ・・)
タクシーもバスも大行列、電車もいつ動くかわからない。
どこも人に溢れ、また次の余震の予感にも恐れをなしていた。
『あの、丸山さん?』
ふいに呼びかけられたので、振り向くと小柄な女性が立っていた。
髪はストレート、サラサラと風になびいていた。
公彦は、見覚えのない顔に驚くが、女性は意に介さずニコッと笑う。
『よかったら、一緒に泊まりません?帰れそうにもないし・・』
『ええ。君はダレ?』
『まあまあ、細かいことはいいから、一緒に来て!!』
女性は小柄な身体のどこにそんな力があるのかと思う程
強引に、公彦を連れ去るように、あるホテルの前に連れてきた。
『君・・これ、いわゆるラブホだけど・・。』
『キャハハ、いいの、いいの。安く泊まれるから。気にしないで。』
(ええ?何がいいんだよォ!困るよ)
公彦は半ば強引に、部屋におしこまれる。
部屋は照明の加減か、青みがかり、海の底にいるようだった。
『久しぶりなんですか?こういうとこ・・』
女性は、意味ありげに笑う。
『・・・』
『ああ、これ食べません?コンビニのおにぎりだけど・・適当に買ってきたんです。』
彼女は、カバンから、おにぎりを取り出し、テーブルの上に広げると
その一つを美味そうにほうばった。
ついでに、ビールもあけて、グビグビ音を立てて飲み干す。
『ク~ッ、美味しいィ!!』
(何なんだ、この女)
公彦は目を丸くするしかなかった。