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亜佐美の場合 ⑧今でも君を

実は、私が一哉のマンションに行った日、もう一人部屋にいた。


里香子のいとこで、内田朔太郎。

古風な名前は、文豪からつけたと聞く。

母親同士が姉妹で、彼と里香子は姉弟のように育ったらしい。

しかし、平凡な容姿で、その時は特に印象はなかった。

心療内科の勤務医だと聞いたが、私は気にも留めていなかったのだ。


それから数日後に、一哉と別れた私の身体にある変調が起こる。

生理が止まったのだ。


(妊娠したのか?どうしよう・・一哉の子供???)


慌てて産婦人科に行ったが、妊娠はしていないと言う。

なのに、つわりのように嘔吐を繰り返した。


想像妊娠?まさか、自分が???と愕然とする私。

頭で理解したつもりの別れが、身体や心は受け入れていなかったのか??

しかし、今更元には戻れない・・・


その時、不意に内田からもらった名刺を思い出した私は、

隣町の駅前にある内田のクリニックに行く予約を取った。


最初、私を見て驚いていた内田。

恥を忍んで不倫の事も話して、今までの心の憂さを吐き出せたのか、

すっきりした。

それは、私にとって初めての経験だったのだ。

世の中に、こんなに安堵出来る相手がいたなんて驚きだった。


そして何度かクリニックに通ううちに、体調も戻り元気になった私は、内田と

医師と患者を越えて親しくなり、結婚した。


新居は、なんと一哉と同じマンション。

里香子が、空いた部屋があるからと是非にと勧めたらしい。


内心心穏やかではないが、もう一哉は過去の人だからと自分に言い聞かせる。


そして、ある日、通勤の帰り、エレベーターで一哉と一緒になった。

他にはダレもいない。二人並んで立った。

一哉は、顔は前に向けたまま、こそこそ話しかける。

彼は相変わらず素敵だった。


『お~い、元気にしてる?』

『ええ、御陰様で元気よ。』

『女はわかんないね、オレ、今でも信じらんねえ。』

『何が??』

『ハッ、それは、言わないでもわかるでしょ??な、サーサーちむぐくるち?今でも覚えてる?』

『え?なんだっけ?』


私はすっとぼけたけど、もちろん覚えてる。


彼が教えてくれた沖縄の方言だ。

《落ち着かない気持ち》

顔を見ないでも、彼がいたずらっぽく笑ってるのが想像できた。

そして、もし、顔を見たら、お互い気持ちが抑えられなくなってしまいそうだった。


その時、私の階になってエレベーターが止まる。


『あ、またな!幸せになるんだぞ!亜佐美!でも、オレは今でも君を・・』

『え?なに?』


振り向いたら、エレベーターの扉は閉まり、何事もなかったように上っていった。






























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