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美咲の場合 ⑥告白

愛子のお腹は日に日に大きくなっていった。

顔も穏やかになり、満ち足りているように見える。

美咲は羨ましいとさえ思った。


結局退職するその日まで、二人で話あう事すら出来なかったのが

残念でならない。

と言うか自分の方が避けているのが痛いほどわかる。愛子も何か話したそうなのに、

話し合えないでいた。


(このまま別れて後悔しないのか・・?)


心の奥底ではそう思うのに、うやむやなまま別れてしまった。

それから彼女は実家の保育園を継ぎ、女の子を産んだと風の噂に聞く。


そして数年後、美咲は南の離島にいた。

真彦は医師となり,離島に赴任するのをきっかけに二人は結婚したのだ。


美咲はお腹に真彦の子供を宿していた。

僻地に来れば、真彦ももう精子ボランティアに関わることなどないと

思っている。都会にいるより安心だ。

制作会社を辞めてこんな所まで来たのはその為だと美咲は思う。


それなのに、たまに夢に見る。

島に到着する船、乗客が降りてくるが、その中に一人降り立つ女の子。

面立ちはどこか真彦に似ているのだ。その女の子は言う。


『八木と言いますが、生方真彦さんを知りませんか?』


美咲はいつもそこで目が覚める。

また、同じ夢を見た。額には汗。隣には真彦が熟睡している。

患者が引きも切らず来るので、いつも疲れ切って泥のように眠っている。

出産が近いので、マタニティブルーなのだと自分に言い聞かせるが

、眠れずまんじりもせず夜明けを迎える事もある。


そんな時、真彦が結婚前に話していた自分の出生の秘密を思い出すのだ。

精子ボランティアの関わりを問うと、自分も人工授精で生まれたのだ告白。

慈善家の祖父母の元に身を寄せた浮浪者の一人が、彼の母親と懇意になった。

しかし北の脱北者と疑わしい父親との婚姻は認めなかったのだ。

その後同志と思われる女性と姿を消してしまう父親。

その頃人工授精で真彦を産んだらしい。

父親を知らないのは、俺も同じと寂しそうな真彦に胸がつかえた。


それから桜の散る頃、元気な男の子を産んだ美咲。

ある日、遠くからの来訪者が来る。

『愛子・・・』

元同僚の八木愛子だった。ふっくらした彼女の傍らには幼稚園くらいの小さな女の子。

名前は凛と言うらしい。


『やっと会えたね、あなたの弟だよ。』


愛子は、精子を提供するのに一度だけ会った真彦を思っていたのだ。

ずっと、ずっと・・それを告白する為、

この日を待ち続けていたのだと美咲は感じたのだった。

















今回で最終話です。長い間ありがとうございました。

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