美咲の場合 ③噂の彼
『美咲、これ知ってる?』
『え、何?』
ある日、同期の八木愛子が言った。
彼女のバソコンの画面の先には、あるホームページ。
『聖人の部屋』とある。
『これがどうしたの?』一見すると普通のホームページ。
『精子ボランティアだって。』
『?』
『精子を提供するってホームページは約40人くらいあるって話だけど、
その中でも一番人気の聖人君、噂では爽やか青年がやってくるらしいよ。』
『・・・・』
『私も申し込もうかな・・・。男も出来そうにないし、もう30代突入なのに、
生理あがりそうだし・・』
『ええ??冗談でしょう・・。』
『そう?・・・場合によってはありかも・・・。』
美咲はいやな予感がした。
爽やか青年、ボランティア?真彦が絡んでそうなワード。
障害者の風俗通いに付きそう親切な好青年なら、相手がいなくて
困ってる30代女性に、自分のエキスである精子を差し出すくらい
やりかねない。
しかも、未婚女性の人工授精は禁じられてるはずで、
金銭の受持がないのに、危険を冒して協力する意図がわからない。
『何で、よく知りもしない女のために、そんなこと出来るんだろう・・・。』
『同じく、何で、よく知りもしない男の精子を受け取ってまで、
子供欲しいと思うんだろうね。信じられない・・・。』
愛子は、パソコンの画面を見入りながら、ズズっとカップラーメンをすすって言う。
『あたしさ、以前知り合いのゲイに聞いたことあるの。』
『ああ、よく行くゲイバーのルミコさん?』
『うん、私たちはどんなに好きな相手がいても、子供は作れないの、でも、自分の
子供は見てみたいって言ってたわ。それじゃない?』
『・・・??』
『行為は出来ないけど、提供は出来る。もし、子供が出来たら、どこかで自分の
DNAを受け継いだ子供が生きてると思うだけで満たされるじゃない???』
え?提供者はゲイ?まさか・・・・・・
それはあくまで想像の域はでないが、有り得ない話ではない。
しかし、美咲に関心があるのは、聖人が真彦であるかどうかの話。
いや、それは話が飛躍してるだけと思うが・・いやそう思いたい。
そんな美咲の気持ちなど、愛子はつゆも知らずはしゃぐように言う。
『ね、聖人君、呼び出してみない?私、取材してみたい。』
『え?本気?』
『うん、噂の爽やか青年、聖人君がどうしてそんな事するか聞いてみたい。』
『ええ??』
美咲の困惑をよそに、愛子は申し込みメールを送ってしまった。




