美咲の場合 ②弱者に寄り添う彼?
たとえば、リゾートで拾った恋ならば、すぐ色褪せてしまうのかもしれない。
日常を逸脱した風景では素敵に見えたのに、ありふれた毎日の中で見ると
ときめきも吹っ飛んでしまう、今まで幾つもそんな思いをしてきたが、
真彦はそれまでの男たちとは違って見えた。
真彦の祖父も慈善家で支援活動に熱心だったと話す。
地方の名家と言う彼の実家にはいつも支援を求める人であふれていたらしい。
献血手帳の記入も、まだ20代なのに満杯。
半ば趣味?のボランティアにせいを出し過ぎて、1年留年してしまったと
笑う真彦。
そんな彼をただ頼もしいと美咲は単純に思っていた。
ある日、街中で真彦を見かけた美咲。
障害者と思われる若い男性を乗せた車椅子を押していた。
また、いつもの善行なのね・・と思って声をかけようとしたら
どんどん風俗店が建ち並ぶエリアに入っていった。
あれ・・どこに行くつもり?
美咲が不審に思って後をつけて行くと、ある店の前に止まった。
車椅子ごと中に入る彼。しばらくすると一人だけ出てきた。
どうやら車椅子の彼を店に連れて行ったようだ。
それもボランティア?
障害者も男・・・ってこと?
話を聞きたくて、美咲は真彦に声をかけた。
真彦は少し驚いた顔をしたが、喫茶店で話をする。
たまに障害者施設の男性が風俗店に行くのにつきそうらしい。
『男性としてはごく自然で、当然の事だぜ。』
女性を施設に呼ぶのは、他の仲間に知られるので恥ずかしい。
でもどうしようもない気持ちを吐き出しに外に出てみたいと言う希望にそいたいと話した。
弱者に寄り添う優しい彼。
美咲の中で勝手にどんどん理想像がふくらんでいくのだった。
ますます真彦に心ひかれていく。
しかし、人の役に立つなら、どんな行為も許されるのか?
突き詰めていけばそんな疑問も浮かぶ。
金銭関係がないなら、何でも有りか?
その頃の美咲はまだその危うさなど想像もしなかったのだった。
真彦の笑顔、それは今の生活の中の癒しだった。
番組の制作会社に勤める美咲は、常に情報を求めストレスを抱える毎日。
男性に混じって、張り合うように仕事をしてきた。
結果を出すのと引き替えに、どんどん失う物も多くなる。
親友に男を奪われたのがいい例だ。
人を常に斜めに見る癖がつき、イヤな女になる気がするが、
真彦に出会った事で、自らが浄化される気持ちになっていた。




