真希の場合 ⑤開運のメイク?
中野の変化に最初に気付いたのは、師匠の荒川の飼い犬のミリオンだった。
荒川が漫画がミリオンセラーになるよう名付けた犬だ。
マメ柴で気が荒く、番犬にはうってつけだが、
気の優しい中野になついていた為、都合よく散歩を押しつけられていたのだ。
そのミリオンが、中野に対して吠えまくる。
『ミリオン、どうした、俺だよ。俺・・。』
ミリオンがあまりに吠えるので、家の中から出てきた荒川の妻。
『どちらさま・・・!?あら・・・。』
中野を見て、目を丸くするばかりでなく、衣服や髪を整い始めた。
まるでイケメンの編集者に対するかのように態度を変える。
『奥様、俺ですよ。中野です。』
『ええ?ウソ!?中野君なの?本当?どうしたの???』
にわかに信じられないように立ちすくむ荒川の妻。
奥から眠気眼の荒川まで出てきた。
無精ひげでむさ苦しく、年中ジャージ姿である。
『何だ、誰が来たんだ???』
『あなた、中野君らしいんだけど・・違う人みたいで驚いてるの・・。』
『え?何言ってんだよ。そんなわけは・・・!?』
同じく目を丸くした荒川。声が出なかった。
中野は、改めて渋谷の威力を感じたのだった。
元々彼は普通の容貌だったが、渋谷のケアを受けて生まれ変わった。
長年の不摂生な生活で便秘、肌荒れ、姿勢の悪さで身体・顔のゆがみが蓄積されて
いたのを、渋谷の技で正常に戻した。
そのおかげで、彼は渋谷のサロンの便器が詰まるかと思われるほどの
便を排泄したらしい。
美容関係の国家資格を数々取得している渋谷は、髪型も整え、無精ひげも剃ってやる。
むくみがとれた顔は、二周りほど小顔になった。
開運の付けボクロもメイクされた顔は、目元すっきりでまるでアイドルのようだったのだ。
それにいち早く反応したのは、
荒川宅に出入りしていた某雑誌の編集者の杉並女史。
『中野君だっけ?あなた、ページの空きが出たの。描いてみない?』
普段は鼻もひっかけなかったのに、すり寄ってきた。
その夜遅く、興奮気味に真希に電話をかけてきた中野。
『俺、今度雑誌に描かせてもらえそうなんだ。渋谷先生のおかげで、俺にも運が向いてきたよォ。』
その作品が成功したら結婚しようと中野は言った。
『真希は俺にとって、幸運の女神様だもんな。』
真希は嬉しいのに、素直に喜べなかった。
渋谷に繋がっている真希をつなぎとめる為にと思えてしまった。




