真希の場合 ②魔女の館
後日、渋谷にもらった名刺のサロンに行ってみる真希。
そこは、何の変哲もない古いビルの中にあった。
目立つ看板もなく、隠れ家のようだが、安っぽい造花で囲まれる室内を
想像した。
渋谷本人もメイクが上手であか抜けてるのに、何か泥臭い。
どこか寒い港の風景を背負ってる雰囲気があった。
元演歌歌手と言うだけある。
しかし、ドアを開けるとまるで別世界?
眩いばかりのシャンデリア、薔薇の香りが鼻をつき、渋谷本人のように
妖しげな空間だった。
『いらっしゃい、お待ちしていました。』
白衣を着て微笑む渋谷は、まるで魔女のようで、真希は正直言うとちょっとぞっとした。
これから何か儀式が始まって、自分は八つ裂きにされるかも???と
あらぬ空想が浮かぶのだ。軽はずみに誘いに乗った事を少々後悔しだす。
(しかし、今更帰れない・・・。)
観念したかのように、寝台に横たわる真希。
それから気を失うほどの未体験ゾーンに突入した。
自分に何が起こってるのかもわからない。
闇から何本もの手が伸びてきたかのように思えた。
絶え間なく、顔が弄ばれるようにいらわれる。
時折、渋谷のハスキーな声が夢うつつに聞こえてくる。
『真希ちゃん、今までお手入れしてこなかったのォ?』
『もう、顔が半分になるくらいむくんでたわよォ?』
『そうら、顔貼り替えるよ~ォ!!』
顔を貼り替える???まさか~~ッ
しかし、起きあがりたいのに身体が動かない。
自分の顔がはがされ、物干しでペラペラ風になびく絵が頭の中に
浮かぶんだ。
そこで目が覚めると、ようやく顔の手入れがすんだみたいだった。
渋谷は汗だくになっている。
『真希ちゃん、見違えたわよ~ッ。ようやく土台が仕上がった。』
へェ?まだ土台ですかい?
しかし真希は、鏡に写った自分の顔に衝撃を受けた。
渋谷の言葉通り、顔が一回り小さくなり、両面が均等になっている。
目は我が人生最大に大きく、唇はきりっと上がって引き締まり、いつものようなヘの字でない。
(何?これ・・・私?ウソみたい・・キレイ・・かも?)
『夕子さん、まさか、私の顔貼り替えたの??』
『はあ?何、バカ言ってるの・・ピーリングして、むき身顔にしただけよ。』
渋谷は、メイクの仕上げをしながら笑い出す。
メイクをした顔を見て、また真希は腰を抜かす程驚いた。
見知らぬ女に見えた自分。メイクだけでこんなに違うなんて・・・
しかし、また落とせば元のさえない自分に戻ると思ってると、
渋谷はささやくように真希に言った。
『真希ちゃん、私のメイクはね、落としても変わらないのよ。手入れ次第で
ずっとキレイなままでいられる。魔法のメイクなのよォ。』
そう言って笑う渋谷は、やはり魔女だった。