香里の場合 ③ノーサイドに生きる
それから何事もなかったかのように、私達は一緒にいた。
(でも、確かめておきたい。)
何気に私は宇蘭に聞いてみた。
『宇蘭は、どうして、ビアンになの?』
『?』
『いいんだ、ただ聞いてみただけ。』
『香里、私、ビアンじゃないよ?』
『え?でも…』
『ああ、あれ?ただ香里が可愛いから。チューしたくなっただけ。』
『?』
『男でも、女でも、関係ないじゃん。』
『ノーサイドってこと?』
『もしかして両刀使いかも?』
宇蘭は、意味ありげに笑う。
(ゲ?私はノーマルに拘るのに?)
宇蘭は、その縛りを一笑する。
(彼女が羨ましい)
いまだにトラウマから抜け出せない自分。
この先、ノーマルな恋愛など出来るのか・・と不安に思っていると言うのに、この違いは越えられない。
それから大学に入学する頃、宇蘭の父親が亡くなった。
ジジイが死んだらしい・・とサバサバした顔。
父親と言っても数えるくらいしか会わず、年齢も祖父と言ってもいいような年齢
なので、最初は祖父と思っていたと話す。
最近は婚外子も、遺産ガッツりもらえるんだってさとアッケラカンと話す宇蘭。
いい時代だって、母親がもらしたと言う。
宇蘭の父親の死亡記事は新聞の隅に載ったらしい。
その遺産で、宇蘭は留学することを決めた。
米国の有名大学に留学、また一段と自由になって帰国するのかと思っていたら、
帰国後あっけなく結婚。
相手は中国人の実業家だった。声が大きく、勢いだけはあると言う印象。
性別がノーサイドかと思ってたら、結局は国がノーサイドだったと言うオチ。
しかし、宇蘭は彼を尊敬していて、数あるライバルをけちらして結婚したと
自慢げに言うのだった。
そして子供も男の子と女の子の双子を産んだ。
私は?と言うと卒業後は、普通に銀行に就職して、普通にただ仕事をこなし
年をとるだけの日々。男性恐怖症はまだ抜けきれなかった。
このまま年をくうだけで終わるのかな・・・
気づけば、30代目前のある日、宇蘭が言った。
『香里に紹介したい人がいるの。会ってみない?』
『え?でも・・。私、男性とつきあう自信ない。』
宇蘭は私のトラウマを知っている。
『大丈夫、心配ない。』
『何で?』
『・・ゲイだから・・面倒なつきあいしないでいい。あなたにぴったりよ。』
『ええ???』
そして、私は円谷清彦さんに出会った。