香里の場合 ②こちらの世界
その日、私は親友の手塚宇蘭の所に寄った。
自慢でないが、私は人見知りが激しく友達が少なかった。
その中で宇欄とは中学生からの親友で、クラスは違うがよく遊びに行く。
彼女は、お嬢様で成績優秀なのに、少し不良で早熟な子だった。
古田(以下呼び捨て)との事を話すと、宇蘭は腹を抱えて笑う。
『もう、宇蘭笑いすぎ…。』
全く何がそんなにおかしい?
私がアイツにビアンと言われた事か?
私が、クラスイチのイケメンをふったことか?
『ゴメン、ゴメン。あの古田の顔が目に浮かんでおかしかったの。』
『…。』
『いつも自信満々でやな奴だから、ザマアよ。でも、香里。』
『うん?』
『ビアンも悪くないよ。』
『え?』
『こちらの世界においで…』
そう言うと、宇蘭の顔が近くなった…。
次の瞬間、私は唇を宇蘭にふさがれる。フワフワの唇の感触。
甘い誘惑・・・。
『!?イヤ!!』
しかし、私は宇蘭を押し退け、外に飛び出した。
(もう、どうなってんの?みんな、どうかしてる!!)
あまりの驚愕に、私は獣のように叫びながら走って帰った。
私はノーマル、私はノーマル・・・呪文のように頭の中で繰り返す。
そう言えば、宇欄はハグ好き。
やたらとスキンシップしたがる。
きっと複雑な家庭環境だから、人恋しいのかと何気に思っていた。
両親は早くから別居、と言うか母親が著名人の愛人と言う噂。
私が家に行っても、いつも家政婦さんが出て来る。
これでもかとご馳走が出てきた。
母親は社長業が忙しくて、宇欄の世話は家政婦の澤さんがすると聞く。
お泊まりだと言って、うちに泊まりに来る時は、私にしがみつくように
同じ布団に寝ていた。
まさか・・・私をそんな目で見ていたのか???
しかし、憎悪がますかと思うが・・そうでもなかった。
走り疲れると・・だんだん冷静になり、トボトボと歩き出した。
こんな事くらいで、宇欄を失うのはイヤだ。私の唯一無二の親友。
彼女ほど私を理解してくれる人に、この先出会う可能性はあるか?
でも・・ビアンになれるか?私?
宇欄の思いに答えられるか???
ああ、それは無理!? まだ、そんな変化について行けない。
帰宅するなり、私は倒れ込み、母親を心配させてしまった。
こちらの世界に・・と言われても・・となかなか寝付けないでいると、
夜中に宇欄から電話があった。
『香里、ごめん!?私を許して!あなたを失うのはイヤだ。』
電話口で、泣いて詫びる宇欄。
こっちの世界?あっちの世界、関係なく、私達互いが必要だった。




