香里の場合 ①雄の匂い
私、松本香里は、叔父が嫌いだった。
でも年が離れている弟を、母はこよなく可愛がっていたので、
叔父はよく家に遊びに来ていた。
あれは・・確か私が小学校4年生の頃、
部屋で勉強をしている時、ぬっと叔父が勝手に入ってきた。
香里、こっち向いて?
声がするので、振り向くと・・・叔父はズボンの前を開けていた。
私が驚くのが面白いのかニヤニヤしている。
そこだけが生き物のように思えて、私は声も出さず
ただ無言で、また前を向いた。
怖い・・そう思ってうつむいた。
叔父は、香里、可愛いな・・と頭をなでて出ていった。
そして母が呼ぶので下に下りて行ったら
叔父は何食わぬ顔で食卓に座っている。
そして楽しそうに、両親と会話していたのだ。
それから叔父が来るたびに、またあの物を見せられる恐怖を感じ、
母のそばを離れなかった。叔父はその姿を見ても面白がっているように思えた。
いつか、あの叔父に私は犯されるのでは?と怯えていたかもしれない。
あんな叔父、死ねばいい
私は心の中で念じていた。
そうしたら、中学2年生の頃、叔父が死んだ。
交通事故だった。
家族中に愛されていた叔父。祖父母の落胆も半端なく母も長く泣き暮らしていた。
まだ大学卒業したばかりというのに・・と嘆き悲しむ母。
私が死ねと念じていたからかも知れないと罪悪感にかられて苦しかった。
でも・・私にあんな事をした叔父は罰を受けても当然とも思う。
些細な事と人は笑うかもしれないが、そのトラウマが私の心の奥底に沈み込んだ。
高校に進学して、クラスで一番人気の同級生の古田君に告白された時も、
身体が凍り付いて動かない。
『松本、好きだ!!』
彼自身は、自分の容姿もよさも十分認知し、自分の告白を断る女子が
いるなんて疑いもしなかったろう。
抱きすくめられた時、彼の身体から沸き立つ雄の匂いに私は目眩がした。
叔父の匂い・・・と似てる・・・気分が悪くなった。
『やめて!!』
私は必死で抵抗し、彼をはねのける。
拒否するなんて信じられないとその顔が言っていた。
『松本・・。』
『・・ごめんなさい。あなたがキライと言うわけじゃないんだけど・・。』
すると、彼は恥をかかされたと思ったのか態度が一変。
ふてくされたように薄ら笑いを浮かべた。
『・・・やっぱりね、噂は本当だったんだ。お前、ビアンらしいな・・。』
『え・・・?』
レズビアン?私は勝手にそう噂されていた。




