春馬の場合 ⑧予知夢と母の本心
春馬は、都会の進学高校に入学する為に、春前教団を離れた。
その日、出産を控え大きなお腹をした美緒が見送ってくれた。
『あなたに、母親らしい事何もしてあげられなかった私を許してね。』
『母さん・・・。』
『あなたの好きな道を行っていいから。もうここには戻らないでいいわ。』
『母さん・・・。』
春馬は、美緒の肩を抱きながら泣くしかなかった。
美緒は、春馬の進学を教団幹部に説得してくれたのだ。
義父であるが、真由の母親の操との子供が出来た隆史は意見する立場にない。
むしろ春馬の方が居場所がなくなりつつあった。
さして教義もない教団経営の先細りをおそれ、
隆史が中心となって着々と新規事業をすすめ、高齢者住宅、墓園事業にも手を広げていく。
山を切り開き、管理の手間のかからない樹木葬用の墓地、宗派を問わない合同墓地、納骨堂
を作っていった。
春馬など必要ない、隆史はそう言うそぶりで、美緒はすっかり変わってしまった
隆史を憂いてるようだった。
操は操で、すっかり隆史と夫婦気取り。美緒を人寄せパンダくらいにしか
思っていない。
『私もアンタと同じ・・』
真由も春馬と同じく、母親を捨てるように教団を出ていった。
そして数年が過ぎ、春馬は医大に入学する。
進学校も首席で卒業、有名国立大学の医学部に入った。
20歳過ぎればただの人・・・
もう半ば自身の神通力など忘れかけていた春馬が、火事の夢を見た。
メラメラと燃えさかる炎。逃げまどう人々。
燃えているのは教団の建物。美緒の悲しげな顔が見えた。
(母さん・・・母さん・・・!?)
その翌朝、けたたましく鳴る電話。
真由からだった。
看護学生の真由とは、たまに連絡を取り合っていた。
『春馬、今朝火事で教団が全焼したらしいよ。』
『ええ???』
『・・・隆史さんとうちの母さん、あの人達の子供は亡くなったらしい・・』
真由は嫌悪して、義理の妹の名前を呼ばない。他人事のように淡々と話す。
『・・母さんは?どうなんだ。』
『美緒様は無事。蒼馬も無事らしい・・・。』
春馬はその場に倒れ込みそうだった。
きっと、美緒の情念の炎で二人は焼き尽くされたのだと思った。




