春馬の場合 ⑦もつれた運命
ある日、いつものように滝業をして、
祈祷の間に入ろうとした春馬は、いきなり後ろから押しのけられる。
『誰!何するんだ!?』
驚いて振り向くと、美緒が立っていた。
幾分ふっくらして、まるで観音様のように神々しく、
まぶしくてまともに顔が見れない。
『母さん、いつ戻ってきたの?』
『・・・あなたはもういいわ。私が戻ってきたから・・』
『え?』
『私の生きる道はここしかないの。離れてみて、わかったわ。あなたは、人並みに生きて、
学校に行きなさい。』
『・・でも・・。』
『いいの。さあ、行くの。行くのよ!!』
美緒は、御簾の中に入る込むと、何事もなかったように信者を招き入れた。
(・・・・何なんだよ・・随分勝手な神様だよな。)
春馬が途方に暮れていると、廊下の隅に真由が立っていた。
『お前、知ってたのか?母さんが戻っていた事・・。』
真由は、母親の操から口止めされていたのだ。
ついでに言うと、隆史も一緒に暮らしていると打ち明けた。
(何にも知らないのは、俺だけか・・・)
無力感に打ちひしがれ、春馬は力無く座り込んでしまった。
隆史は隆史で、教団の中での自分の居場所を探していた。
美緒は隆史とは距離を置き、ただ神事の事に追われる。
教団の幹部からは、美緒のお腹の子は順調だが、出産したら里子に出すと言われてしまう。
『そんな、何て事を言うんだ!!』
『・・俗界の男との子供なんて価値がない。春馬様もいるから用はないんだよ。』
『待って!あれは俺の子供じゃないかも知れない・・。』
『・・・じゃあ、お前と交わって出来たのではないのか?』
『・イヤ・・・。でも、男として機能しなかったんだ。俺は・・。』
『とにかく、子供が出来たらお前共々出ていって貰うから、そのつもりで・・。』
幹部の冷たい言葉に打ちのめされる隆史。
しかし真由の母親の操に、幹部の不正を耳打ちされて、
秘密に調査に乗り出した。
一部の幹部が、教団の資金を私的に流用してると言う。
大手企業で経理をしていた隆史は、幹部達の不正を暴くなど容易い事だった。
隆史を誹謗した幹部もそのうちの一人で、かねてから快く思っていなかった
改革派の幹部と組み、不正をした幹部を一掃したのだ。
信頼を集めた隆史は、いつのまみか教団の中枢にのし上がる。
そして翌年の5月に、美緒は男の子を出産した。名前は蒼馬。
それから夏に、操が女の子を出産した。
隆史との子供だった。