春馬の場合 ⑥愛に狂って
隆史は、教団の門の前で、この3ヶ月ほどの日々の事を
思い出していた。
再会して、感情にまかせ美緒を自宅に連れ去ってしまった事に
後悔はない。
しかしその後の日々は自分が思い描いていたのとはあまりに違うので
愕然としたのは確か。
まず美緒は家事一般が出来ない。
隆史が仕事から疲れて帰ってきても、何一つ出来ず、ただ暗がりの中で
うつろな目をして座っているだけだ。
食事もろくにせず、一日ぼんやりしているのかと思っていたが、そうではなく
信者のことを一心に祈っている風だった。
(俺より、信者の方が大事か・・・)と隆史は思う。
そしてその不安をうち消すかのように夜狂おしく隆史は美緒を抱きしめるのだが、
一つになろうとすると隆史自身が萎えてしまった。
あまりに純真無垢な美緒の前に、自分の煩悩が恥ずかしくなるのだ。
美緒もその気持ちを思うと申し訳なく、『ごめんなさい・・』と泣くばかりだった。
そうして無為に日々が過ぎて、ある日帰宅すると美緒の姿がなかった。
(教団に帰ったのか???)
もう、何も手に着かず、夜半車を走らせていた。
でもいざ門の前に立つと、心が萎える。
美緒を連れ帰しても、また同じ日々で二人が破滅してしまうのは
目に見えてる。
(でも、もう美緒のいない日々は考えられない・・・)
隆史は防犯カメラを叩き壊し、門をよじ登り中に侵入した。
警備の岡村の目をくぐり、操が渡り廊下を歩くのが見えた。
次の瞬間、操は後ろから襲われる。
『ヒィッ!?』
『シッ!美緒はどこにいる?教えてくれ!』
月夜に光る刃物が見え、操は仕方なく隆史に従った。
そして美緒の居る離れに押し入った。
奥の間で、寝ている美緒を見つけると、
『美緒、俺を置いていかないでくれ。』とただ泣き崩れてしまう隆史。
『・・・あの、美緒様はいま妊娠されてます。安静にしないといけないんです。』
『え?妊娠???』
俺の子?
まさか・・・・驚愕する隆史を
操は不審に思うが、美男の彼にすっかり心奪われてしまうのだ。
すると、慌ただしく教団の幹部達が部屋に押しかけてきた。
『よくも、のこのことここに来れたな。』
『あなた達が何と言っても俺は、美緒とは別れません。何なら警察に突き出しますか?』
『・・・・・』
何より世間の目を気にする幹部達は、押し黙った。
『今度騒ぎを起こすとタダじゃ置かないからな!!』と誇示して帰っていく。
それから隆史は仕事も辞め、教団に住み着くようになったのだ。
美緒のそばにただいたかった。




