春馬の場合 ④降臨の昼、制裁の夜
そして遂に
最初の相談者が、御簾の前に座る。
年齢は60代後半、声が低くて話が聞き取りにくい・・
周囲の幹部は、春馬の様子が気にかかる。
15の子供に、老婆の悩みがわかるのか?それに納得させるだけの
答えを導き出すことは出来るのか?と。
誰もが息を呑む思いで、春馬の言動を待った。
しかし、御簾から聞こえてきたのは別人のような春馬の声。
何かが乗り移ったかのようにしゃべり始めた。
相手の悩みの真髄を知り得たかのような老成した声。
とても15歳の未熟な未成年の声でない。
その的確な応答に、
相談者は、『ありがたい・・』と最後には涙してひれ伏した。
真由を始め周囲にいた誰もが、腰が抜けるほど驚く。
(なに?何?あの春馬に何が起こったの???)
美緒が初めて教祖の座についた時以来の衝撃だ。
(やはり、神の落とし子なのか・・)
それから相談者が続いたが、誰も怪しむこともなく満足して帰って行く。
そして期待以上の布施を納めていった。
夕方、力つきて御簾から出てきたのは、やはりいつもの春馬。
すぐには歩けないほど消耗していた。
きっと、神通力を使い果たしたからと思っていた真由。
肩を抱えて起きあがらせようとすると、
『真由、腹減った・・すぐご飯にしてくれと伝えて・・・』と
春馬の声。
それはまだ幼さの残る15歳の少年の顔だった。
(いったい、あれは何だったの??)
春馬に聞いても、記憶がないと言う。
相談者の悩みに応えねば・・と全身全霊を集中していたと答えるだけだ。
(まさか・・本当に神通力が・・?)
本来は懐疑的な真由は、にわかに信じられない。
そして夜、一人、祈祷の間に来た真由。
御簾の中を開けてみる。ただの神座があるだけだ。
何か秘密はないのか?たとえばドラッグとか・・・と探ってると
『そこで、何してる!!』と背後から声。
振り返ると、教団の幹部の一人 加賀美庸介。
故慶雲の甥だが、他の親族は真澄に追い払われたのに
彼女に取り入り、一人教団に残った男。
驚いた真由は、立ちすくむ。
『神の座を汚すとは何事!』と真由の手を掴んだ。
そして、庸介に汚された真由。
制裁と言って犯された。
泣きながら部屋に戻った真由に、母親の操は冷たく言う。
『庸介にやられたって?あのボンクラにやれるなんて、ザマないね。
何やってんの。』
『もっと力のある奴でないとダメだよ。こんな狭い世界でもね。』
でも、ただじゃ済ませない・・・
真由は、そう言う母親の顔を見るだけだった。




