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亜佐美の場合 ④秘密の呪文

『昨日、奥さんが病院に来たわよ。』

私は玄関口で、一哉の顔を見るなりそうもらした。


『ああ、望、調子悪くてもどしたらしいから・・』

私を抱きしめながら、気のないように言う彼。


『だから昨日は早めに帰宅したってことね。』

『そう、当たり!俺も一応パパだからね、そんな時くらい早めに帰るのさ。

 日頃の悪行をわびながら奥様のご機嫌伺いに忙しいのわかって欲しいよ。』

『ふ~ん、一応よくなったから、今日はこっちに来た?』

『もう、俺がどんなに亜佐美に会いたかったかわかる?』


狡い男だと思いながら、唇をふさがれて私は目を閉じる。


『奥さん、母親オーラが半端なかったわ。』

『ああ、俺も感心する。血も繋がらない子供なのに・・女はすごいなって。』

『え?』

『あ・・これはタブーだよな。』


一哉はバツが悪そうな顔をしたが、私は畳みかけるように聞いた。


『タイに行ったのね。』

『・・・勧めたのは亜佐美だろ?里香子は煮詰まってたから・・二つ返事さ。』


やはり、そうだったのか・・

ひょっとしたら、私が提供した卵子で妊娠したかもと思う。

費用は里香子の実家が出したらしい。

血が繋がらなくても子供の形は欲しい・・そう思う切実な思いは批判できない。


しかし、着地点を偶然知ってしまった自分はこれからどうすればいいのだろう。

そして、その事実を少なくとも一哉に打ち明けるべきか迷ってしまう。


『その結果、めでたく子供が出来た。それでいいじゃないか。』


頭の中は煩悩に狂いそうなのに、夜の底に二人で落ちていく


(サーサーちむぐくるち。サーサーちむぐくるち・・)

耳元で、呪文のようにそうささやく一哉


『なに?どういう意味?』

『・・沖縄の方言。落ち着かない気持ちって意味らしい。』

『・・・・』


サーサーは落ち着かないと言う意味だとか、ちむぐくるちは気持ち。

先週沖縄での出張で覚えたと言う。

『亜佐美に再会してから、ソワソワ落ちつかない。今の俺の気持ちにピッタリだなと

思ってさ・・・。』


(よく言うわね・・私はまた別の意味で落ち着かないのに・・)


男の見え透いた言葉に、少し白けながらも、嬉しく思ってしまう自分が

情けない。


少し眠る男の横で、ふと思い出して、一哉の携帯を盗み見る。

待受画面で幸せそうに笑う奥さんの里香子の顔、その腕に抱かれる息子の望


やはり半端ない母親オーラに嫉妬する自分の気持ちをもてあましていた


















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