美緒の場合 ⑧予想外の結末
その時、誰が見ても英里子の仕業と思われるのに、
確たる証拠がないばかりに、犯人逮捕にいたらなかったのだ。
それから職を転々とした雄太は、行く先々で
英里子と思われる陰に怯えながら生きてきたと言う。
その話を聞き、美緒は雄太の人生を思うと胸がつまる。
(この人は、私が守る!!)
暮雨だの涙を流しながら、彼女は誓うのだった。
そして翌日、二人で新居を探す為に足早に歩いていた時、
後ろから誰かの気配を感じた美緒。
振り向くと、見知らぬ女が立っている。その手には光る物が・・
『アッアッ・・・。』
次の瞬間、勢い走ってきた相手に、脇腹を刺されて倒れ込んだ美緒。
咄嗟に雄太をかばったのだ。
『美緒、美緒~ッ!!』
雄太の声が遠くに聞こえた。
そして、目覚めると病院。ベットの脇には雄太が座っていた。
丸二日間眠っていたらしい。生死を彷徨った。
美緒を刺した英里子は現行犯で捕まり、警察に連行されたと雄太が話す。
(まるで夢のようだ・・・)
英里子との悪夢はこれで終わるのか?とも思うが、
数々の余罪があるとして、英里子は今度ばかりは免れないだろうと
雄太は淡々としていた。
長い旅が終わったような清々しい気分だと話す。
そして数ヶ月後、雄太と美緒は結婚した。美緒は新しい命を宿していたのだ。
これから二人の新生活が始まると思われたある日、
雄太の父親勇次から連絡があった。
『至急、アナトリアムに戻ってくれ。』
『父さん、俺はもう戻るつもりはないんだ。』
『いや、お前が必要なんだ、戻ってくれないか。』
コミュニティのアナトリウムの代表、神木が急死した。
ナンバー2の座に登り詰めた雄太の父親勇次は、新しい代表に収まったのだ。
しかし、閉鎖的なコミュニティの中でも派閥があり、
心よく思っていない人物も多いと勇次は言う。
そして神木の死が突然だったので、毒殺では?と言う憶測まで広まった。
しかも、神木の忘れ形見の優子は、雄太の母親由希子との子供だという。
由希子自身はコミュニティを出て行方知れずだ。
その優子の後見人として、勇次がコミュニティの中の権力を握った形である。
雄太は、心許せる人間にそばにいて欲しいと願う父に逆らえず、コミュニティに
戻ってしまった。
美緒もアナトリウムに行くと話したのに、息子の蒼には、普通の生活を
させたいと雄太は話して譲らない。
今では、週末だけ出張のように、美緒の元に戻ってくる雄太。
肩書きは(株)アナトリアムの広報部長。羽振りもいい。
しかし、美緒は二人で暮らし初めた頃のあの危うい日々を
懐かしんでいるのだった。