美緒の場合 ⑦クレージーな彼女
雄太が、英里子に初めて会ったのは、まだ20歳の頃。
まず英里子のフランス人形を思わせる風貌に憧れを持った。
エレガントな身のこなしが印象的だったので、彼女の好意は
素直に嬉しかった。
3歳年上の英里子は、長らく閉鎖的な環境に育った彼に、カルチャーショックを
与える如く魅力的に見えたのだった。
彼女も雄太に夢中で、閉店後毎日のようにデートするのが楽しかった。
(将来結婚したら、あなたに店を持たせてあげる。)
英里子はベットの中で、そう彼にささやくのが常だった。
ある日英里子が風邪を引いたと聞いたので、彼女のマンションに向かった雄太。
そこで、衝撃の事実を知る。
英里子のマンションは都内の億ションと言うのに、ドアを開けるとゴミが崩れ落ちてきた。
いつも外で会っていたので、こんな汚部屋とは夢にも知らなかった彼。
呆然としていると、英里子はそのゴミの中から、部屋着姿で来る。
『嬉しい。心配して来てくれたのね。』
英里子は、部屋の惨状など気にもしない風で、彼を招き入れたのだ。
リビングは更にゴミや物に溢れていて、せっかくの眺望も
ゴミにふさがれてよく見えない。
何とも言えない異臭もするし、彼は気分が悪くなり吐きそうだった。
『びっくりしたでしょ?最近家政婦が辞めて、このざまなの・・。』
彼女が幼いときから、乳母のように面倒を見てくれていた家政婦が
体調不良の為退職したと言う。
でも彼女以外の家政婦は雇う気がしないので、そのままにしてたら
こうなったと屈託がない。
父親の佐伯は、英里子を溺愛はしていたが、3度目の妻との家庭があり
この部屋に来ることはない。
雄太は、ゴミ中で座ってると痒くなって来る。
その時は、気分が悪いのでそそくさと帰ってしまったのだ。
それからすっかり英里子に対する気持ちが冷めて、
彼女を避けるようになった
『ごめん、英里子さん。俺達別れよう。』と告げたが
英里子は納得しない。
英里子は、次第に異常な態度を取るようになる。
日に千回くらいメールがあった。
『何で、会ってくれないの。』
『愛してる、あなたを愛してる。』
警察にストーカー被害を訴えても、メールで罰する規定はないと
一笑されるのがオチだった。
それから帰りを待ち伏せしてる英里子の車にはねられそうになったこともある。
その様子を見て、職場の先輩は雄太を冷笑した。
『あの人造人間、怒らすと怖いぜ。迷惑かけるなよ。』
フランス人形のようだと思っていた英里子の容姿は、全身美容整形によるものだったのだ。
それから、更に佐伯の名前でディナーを、多人数で予約しておきながら
ドタキャンすると言う嫌がらせまでするようになったが、店のオーナーシェフの
宮下は、雄太をかばってくれていたのだった。
そんなある日、雄太の勤めていた店が火事になった。
店は全焼、宮下は焼死してしまったのだった。
 




