由起夫の場合 ⑦運命の日そして・・・
そして、運命の日?
山口東子と待ち合わせたのは有名ホテルのロビー
滝の見えるカフェの窓側の席。
打ち合わせが長引き、10分ほど待たせてしまった。
胸が高鳴るのか、走ってきたせいなのか由紀夫は心臓がバクバク。
『山口さん?』
『ハイ、お久しぶりです。お兄さん。』
『ごめん、遅れてしまって・・すみません。』
『いいえ、窓の景色に見とれてたから全然かまいません。』
10数年ぶりに会った東子。今年30歳なのに、愛くるしい笑顔。
素直に伸びた髪が美しく、とても難民キャンプと言う修羅場を
くぐってきた女性とは思えない。しなやかな小鹿のようだった。
『日本は何年ぶり?』
『あ・・高校卒業以来だから、もう十年以上ぶりかしら。今日は
お兄さんにお願いがあって来ました。』
『何?お願い?』
(何だ・・ビジネス?)
期待が大きかっただけに、チョットがっくり
東子は大きなバックから資料を出してきた。
DVなどの女性を救済するNPOを立ち上げるつもりだと話す。
長年難民支援に携わってきたが帰国して、NPOの主催者の先輩の助けをしたいらしい。
それで法律的な事を相談に乗って欲しいようだ。
熱っぽく話す東子に由紀夫は見惚れつつ、内心がっくりから抜け出せない。
『それはもちろん、いいですよ。』
『是非お願いします。お兄さんに助けてもらえれば心強いです。』
東子は我が意を得たと感じたのか、書類をしまいだす。
もう用はないのか?と思いきや、
『あの、お兄さんに会って欲しい人がいるの。』と東子は伏し目がちになった。
『え?』
『あっちで待ってるので,連れてきます。』
『?』
東子は、さっさと立ち上がると、3歳くらいの子供を連れてきた。
しかも青い目をしている。名前はフランソワ、男の子だった。
(なに?子持ち???)
そりゃ、30歳なんだから未婚とは限らないよ、落ち着け、落ち着けと
由紀夫は自分に言い聞かせる。
『マァマ、この人が新しいパパ?』
子供はいきなり直球ストレートを投げ込んで来る。
その直球の速さにおののきながらも、
由紀夫はしっかり受け取ってしまったのだ。
東子の夫は、2年前に仕事中に地雷を踏んで死亡。
フランス人で、同僚だった。
東子は持病のヘルニアが悪化して日本で治療を希望。
退職して、安全な母国で親子共に暮らしたいと思うようになったらしい。
『ああ、はめられちゃって・・』と長谷川に茶化された。
『そうよ、いきなり3歳児の父親だって・・また、コイツがこまっしゃくれた奴でね・・。』
と口では言うが満更でもない由紀夫。
フランソワは、由紀夫をもうパパ扱いで甘える。
その彼を連れて、東子が入院する病院に通うのが無上の喜びだった。




