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亜佐美の場合 ③秘密が口を開ける

最近、気になる新聞記事を見つけた。

人工授精で生まれた子供が、遺伝子上の父親、

つまり精子提供者の情報を知る権利を主張しているとか。


大概の病院では、提供者の古いリストは、廃棄されてる場合が多いのも批判されていた。

おそらく隠している場合もあるのかもしれない。


出目を知る権利・・

父親になって欲しいわけじゃない・・自分のアイデンティティーを確認したいと言う者もいる。

しかし生を受けた本人には深刻な悩みかもしれないが、探された方は迷惑な話だと

つい思ってしまう。

誰も後々面倒があるなら協力したくないだろうし、提供者がいなくなると頭を抱える関係者も

いるのだとか。


しかし、驚くことに、アメリカでは遺伝子上の父親と遺伝子上の子供を引き合わせるサイトも

存在するらしい。

もしかしたら、遺伝子上の兄弟も出会えるのかもしれないが、日本はどう転んでも

アメリカほどオープンにはなれないだろう。


あの頃、自分の提供した卵子がどこに着地していくのかなんて考えもしなかった自分。

10ヶ月お腹で育てた女性が母としていればいいので、私には関係ないと思う。


そう思っていた・・・あの親子を見るまでは・・・


ある日、ひときわ目立つ女性が病院に来た。

見るからに高額そうな外国製のベビーカー。育児中も化粧ばっちりだ。


(一哉の妻の里香子だ、いつか来ると思ってた・・)


『小児科にお願いします。』と里香子。


涼やかな声、顔、なんでそんなに自慢げなの?と思う程

その顔は、母親の喜びに溢れていた。


私は事務的な顔でカルテを作りながら、子供の顔を盗み見る。


(アイツ、いつも寝てるんだ。オレ、朝早いし、夜遅いし。たまにキミんちに寄るしさあ・・

 悪いパパだよな。でも子供って母親のもんだなって思うよ。オレなんていてもいなくても

 いいみたい。)

一哉がそう言って笑うのを思い出す。


確かに、ベビーカーの中で眠る小さな命。いい匂いがして可愛らしい。

名前は、藤本望 ノゾミ君か・・・そう思っていたら、子供が目を覚ました。

里香子は、優しい声であやす。子供は大粒の涙を流しながらも、母の胸で

甘えてまた眠った。


(・・・・・)


驚くことに、私の幼い頃の顔に似ていた。

目元、口元、鼻の高いのは一哉かもしれないが・・・


慌てて、一哉の子供の生年月日を確かめる。受胎可能な月が

私がタイに渡った頃に重なった。

入れ替わりに一哉夫婦がタイに行ってもおかしくない。


(もしかしたら・・・あの子、私の卵子で生まれた子供?)


秘密が、大きく口を開ける気がした。
























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