由起夫の場合 ⑤愛は突然に
元彼女登場に、ときめくより恐れを抱く由起夫。
これ幸いにと受け皿にされては、まさしく都合のよい男になりさがってしまうと
思い立った。
『防衛するには、新しい彼女を作るしかないっすよォ。』
半分冗談に面白がる長谷川。
そんなに器用に恋ができれば、今の今まで独身でいる筈ない。
(ク~ッ、悔しいィ~)と思うしかなかった。
しかし、そう言って別れた長谷川は、その晩に救急車で運ばれたと言う。
原因は急性の盲腸炎。
家に着くなり、猛烈な痛みに襲われたらしい。
救急車で運ばれて、都内の救急病院に搬送された。
そして、そこで運命の女性に出会ったと言う。
彼女は新米看護士で、名前は三島亜紀。
手術のために、彼の下半身の剃毛を担当した。
(もう、オレ、恥ずかしくて・・・)
しかし、可憐なその姿に見とれてしまったと嬉しそうに話す長谷川。
猛烈アタックで、見事彼女を射止めたそうだ。
『人生、わかんないもんですね~何が幸いするかあ。』
幸せ満杯の長谷川。
その急展開に圧倒されて、由起夫は意気消沈するのだ。
そんなある日、
腹違いの弟陽介から電話があった。
『兄さん、あのさ、山口東子覚えてる?』
『え?東子さんて誰だったっけ?』
『オレの同級生、久々に日本に帰ってくる。兄さんに会いたいってさ。』
『・・なんで?』
『東子、兄さんが好きだったんだ。』
『へ~~。』
(まさに青天の霹靂???)
『兄さん、断るなら、オレ、いただくぜ。』
『・・・?なんで?』
『オレ、東子が好きだった。ずっと・・』
山口東子。
由起夫は、その時初めて、よく家に遊びに来ていた陽介の同級生だった子だと
思い出す。
野生の猫のようにしなやかな女の子だった。
良家の子女なのに、お転婆で、元気な子だったと思い出す。
高校を卒業と同時に、父親の転勤で海外に行ってしまったと聞いていた。
(あの子がオレを好きだったって??)
でも、何故に?モテモテの陽介がそばにいながら、どうして自分に
好意があったのか?
そんな事、想像すらしなかった。
東子は、いまは難民救済の団体の職員で、世界中を支援に回っていると言う。
久々に日本に一時帰国するらしく、陽介に連絡してきたと言うのだ。
『相変わらずオレの気持ちも知らずに、兄さんに会わせろってさ。癪に障る女だよ。』
東子はファザコンだからオヤジが好きなんだと陽介は笑っていた。