由起夫の場合 ③不幸になあれ
長谷川は、
日頃はストレスを抱える職業なので、異業種の男性なら
悩み事も話せるとでも思ったのかもしれない。すっかり打ち解けたように話す。
彼にも由起夫と同じく、30代の始めに結婚を意識した女性がいた。
名前は優子と言うが、プロポーズする前に他の男性を好きになったと、
別れを切り出されてしまったらしい。
スタイルがよく、よく気がつくので、勝手に自分と結婚するものだと
思っていたと話す。
『女はわかんないです・・・。俺の何が不満だったんでしょう・・』
高収入,それなりの容姿、なのにふられた・・。
それは同感。何が足らなかったのか・・俺たち。
『それより、甲斐さんは、元カノがどうしてるか御存知ですか?』
『さあ・・・。』
そんなの知りたくもない。幸せに暮らしていたならそれでいいと由起夫は
思ってはいるが・・・
『あのね、その女はもう離婚したらしいです。』
『へえ~。』
『聞いた噂だと、元々略奪婚だって。他人から盗った男は、また盗られたってわけです。
ざまあみろですよ。』
『・・・・・。』
『あれ、だいたい男は別れた女の幸せを祈り、女は不幸になればいいと思うもんらしい。
俺、女々しいんですね。きっと・・・。』
幾分自嘲気味に話す長谷川に、
誰でも、本心はそうだって、カッコつける事ないよ・・と由起夫は腹で思った。
自分も噂を聞けば、そう思うかもしれない。
長谷川とは意気投合し、その後度々会うようになった。
そんなある日、いつものように昼食を食べに行く為にドアを開けた由起夫。
その時、思いがけない相手に会った。真向かいの同業者の弁護士事務所から
出てきたのは,かっての恋人の真美だった。
あれから10年以上たつのに、髪形がまるで同じだったから、見間違うはずがない。
相手も驚いた顔をしたが、
(わざわざ、うちの向かいの弁護士事務所に来るか??)と由起夫は思ってしまった。
向かいの横山弁護士は大所帯の事務所だが、過払い請求訴訟のバブルに乗じて
大儲けした。しかしその分若手弁護士が育っていないとの噂だ。
大手消費者金融相手に楽な裁判ばかりやっていたら、弁護士としての実績・実力は
つめないだろうと弱小事務所の由紀夫などは思う。
『あら、久しぶり・・元気にしてるの??』
久々に会った真美。
顔は涼やかな笑顔を装うが、目は笑っていなかった。