表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/68

友梨の場合 ⑥嵐の後で

王さんの会社は、友梨の会社のある商業施設の近所にあるらしい。

もともと毎日のように前を通るから、結婚式の依頼を頼んだと思われた。


婚約者を亡くして数ヶ月。まだ心の傷が癒えない彼。

約束をするでもなく、たまたま通りかかったかのように振る舞って、

王さんとお茶する日々が過ぎていった。


たわいもない話をしながら、ある日真顔で王さんは聞いてきた。


『もし間違いだったら、ごめんなさい。一つ聞いてもいい?』

『なんですか?』

『・・・ユンリーさんは、日本人なんですか?』

『・・・・そうです。ソレが何か?』

『ううん、気にしないでください。ただ何となくそうじゃないかと思ったから。

 僕は気にしません。』

『・・・・』


その頃、中国全体に不穏な動きが噂されていた。

尖閣諸島の領有権をめぐり日本政府と軋轢があると

友梨も知っていた。

羽島葉子は、携帯で反日デモの情報をこまめにチェックしている。


『ね、近々こっちも来るかもよ。』

『え?』

『反日デモ、あいつら不満でウズウズしてるから・・大暴れする機会を

狙ってるんじゃない?』

『・・そうかな?だとしたら怖い。』


友梨の職場でもその話題でもちきりだった。

日系企業の商業施設に会社がある以上、ターゲットにされかねない。

普通に町行く人が、ある日突如、黒い束になって襲いかかる気がして

身が震える恐怖を覚えた。


そして9月、日本政府が尖閣諸島を国有化したとのニュースが

流れると、ある日、ついにデモ隊が商業施設に押し寄せてきた。


事前に公安から指示通達があり、万が一のために支社長は銀行に

お金を移動させていたが、

しかし、たくさんのウェデイング衣装は移動させようがない。

息をのむように、友梨達は見守るしかなかった。


そして願い空しく、デモ隊はガラスを打ち破り、中に進入すると

破壊行為の限りをつくす。

金品、陳列していた商品は強奪、高級品など根こそぎ持ち去られていた。

ガラスは粉々、泥だらけの店内。陳列棚はどこも空っぽだった。


(なんて、ひどい!!私達が何をしたって言うの?)


狂気のようなデモ隊が去った後、

友梨は、踏みつけられ汚されたドレスを見て、涙が止まらなかった。

それは店で働く中国人従業員も同じ気持ちらしく、

泣きながら店内の後かたづけをしていたのだ。


『ユンリーさん、無事でしたか?』

振り向くと、王さんが、心配そうに友梨を見ていた。


『王さん・・・』

『心配した。ユンリーさん、無事でよかった。』


友梨は、王さんにしがみつき泣いていた。
















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ