友梨の場合 ⑤彼の噂
周美鈴の葬儀の日、
悲劇の新郎王さんは、新婦が着る予定だったウェデイングドレスと
自分の純白のタキシードを入れて火葬した。
遺骨を受け取った両親は、およそあの美しい彼女に似つかわしくない
質素で純朴な田舎の夫婦。
額に深く刻まれた皺の奥の瞳から涙を流し、不幸な娘を哀れんでいた。
そして彼女の遺骨は、その両親に引き取られ、山奥の村へと帰っていった。
友梨は葬儀に参列したが、王さんを遠くから心配げに見守っていた。
(これで、彼に会うこともない・・・)
そう思うと悲しみに尚瞳が濡れるのだった。
彼の事は、どこから聞きつけたかネットで少しの間噂になる。
悲劇の新郎!可愛そうな男・・と。
『ねえ、これ見て。』と携帯を差し出す羽島葉子。
二人でお茶してる時の事、友梨はその携帯の記事に目を留めた。
王さんに関係ある女性が亡くなったのは、今回の彼女だけでないとの噂。
過去にも女性が亡くなっているらしいと。
『なに?これ、デマじゃない!?』
『・・・そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない・・』
羽島葉子は、意味ありげに笑う。
『女性にもいるらしいよ。シニマンってさあ~。』
『え?なに、それ・・』
『その女性と関係すると、男は死ぬんだよ。』
『・・・信じらんない。下品すぎる。』
『まあまあ、そんなに怒らないで。あんたは彼と付き合ってるわけでもないんだしさ。』
葉子は軽い冗談のつもりのようだが、友梨は心底腹が立った。
あんなに可愛そうな王さんを貶めるなんて、ひどすぎる。
もちろん葉子に悪気はないし、他に心を許せる友人がいないから失いたくない。
それは葉子も同じようで、友梨の機嫌をそこねたことを素直に詫びるのだった。
友梨の王さんへの思いは、あの日以来尚募るばかりだ。
そんなある日、カフェでぼんやりしている王さんを見つける。
久々に見る彼は、やつれて痩せていた。
見るに見かねて、声をかける友梨。
王さんは驚いていたが、人なつこい笑顔になる。
友梨は、王さんの席に一緒に座り、珈琲をオーダーした。
『ユンリーさん。あの時はすっかり迷惑かけました。』
『いいえ、王さん、大変でしたね。』
肩をすくめる王さんに、友梨は泣きたくなる。
(可愛そうな王さん、会いたかった。ずっと・・・)
思いは通じるんだな・・・と思う友梨。
ネットで、どんな噂されてても、私だけは彼を信じよう。
そう思う友梨だった。