友梨の場合 ③ドレスにこめた思い
『それは、金目当てだね・・。』
羽島葉子は、紫煙をくゆらしてそう言う。
彼女は、友梨の職場のある商業施設にあるコンビニで働いている。
元々は資産家の令嬢との噂だが、世界中を放浪し、今は中国の大学に
通いながら、コンビニでアルバイトしていた。
友梨にとって、中国で初めて出来た職場以外の友人。
たまに二人で、カラオケに行くのがストレス発散になっている。
職場では、中国語を酷使し、中国人のような顔をして働いてるので、
葉子に会うと、正直ほっとする。
小柄で華奢な風貌なのに、大の男とやりあう彼女に、頼もしいやら怖いやら・・
友梨は驚いてしまう事もしばしば。
『弱気じゃ、この中国じゃやっていけないよ!』と言うのが彼女の口癖。
久々に、飲みながら歌った。
大きな声で、日本語で歌を歌うのが、何とも爽快。
友梨は、気になる王富春の事も葉子にだけ打ち明けたのだ。
『それ、やばくね?お客に、それも新郎に心奪われて、どうすんのさ~。』
『・・・わかってるんだけど・・気になるんだもん。仕方ないでしょ!』
そんな気持ち、久々だったから・・自分でもどうしたらいいかわからない。
『しかも、新婦は、モデルみたいな美人で、アンタ、勝てる??』
『あ~ッ!言わないでェ』
きっと、あの二人の式の当日の夜は、またここに来て、泣きながら
カラオケを絶叫して、自分の気持ちにピリオドを打つつもり。
羨ましい・・と言うか妬ましい新婦は、この所、自らのウェディングドレスを
縫いにサロンに通ってくる。
自分の佳き日を、オンリーワンのドレスで飾りたいと望む花嫁の為に
オートクチュールをオーダーするのではなく、
自分でウェディングドレスを作る事を提案したのは友梨自身だ。
ウェディングドレスの自主制作は、
日本でも話題になっていると知ったので、現地で講師を招いている。
1回4時間程度のコースだが、自分の好みのドレスをより安価で作れると
あって好評だった。
花をつけたり、ビジューを縫いつけたり、パール、レースをあしらったりと
花嫁の個性で、見ているこちらも楽しくなる。
新婦である周美鈴は、パーティコンパニオンとして働いているのを、
王に見初められたと聞いた。
出身は山奥の貧しい村で、挙式には新婦側の親族は誰も来ないと聞き、
新婦は肩身の狭い思いをしているのだろうとは思った。
しかし、問題はそれだけではなかったのだった。